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「まぁ、上がんなさいよ。」 カナが、ドアを潜る。 マコちゃんことマコト、そしてトウマがそれに続く。 「仕方ないだろう、ハルカだって暇じゃないんだから。」 マコトが、がっくりと肩を落とす。 「ああ………せっかく準備して、ハルカさんに会いに来たのに!」 「おーう、なんだい?私じゃ不満だってのかい?」 「いや、不満っていうか………何もかも違うっていうか………。」 「よし、いい度胸だ。そこに直れ。」 「あ、いや、その、このメンバーなら、着替えなくても良かったなぁ、なんて………。」 「ほう………。」 カナの攻撃をやり過ごし、依然肩を落としたままのマコトが誰も居ないテーブルに着く。 「チアキも他所で勉強会だし、藤岡も部活だ。トウマも、残念だったな。」 「いや、俺はどっちにしろ、暇だから。」 トウマも、それに続いてテーブルに着く。 「練習も中止になっちゃったし、まだ家に帰っても誰も居ないし。」 「トウマって、家でゲームとかやらないのか?」 マコトが肘を突いて、トウマに話し掛ける。 「うん………ほとんどやらない。」 「ウイイレとか、サッカーのもあるじゃん。」 「だったら、ゲームじゃなくてホントに練習した方が楽しいよ。」 「いや、だから今日みたいに暇なときはさ………。」 マコトとトウマは、テーブルを挟んで他愛も無い雑談をする。やがて、荷物を片付けて 着替えを済ませたカナが、リビングにやって来る。 「よし。誰も居ないんだし、今日は私がもてなしてやろうじゃないか。」 カナは、腰に手を当てていかにも偉そうに胸を張った。 「あ、そうだ。そういえば、『あのプリン』があるんだった。」 台所に向かいながら、カナがぽつりと漏らす。それを聞いた瞬間、トウマは勢い良く 振り向く。眼が輝いている。 「『駅前の角のあの店のプリン』!?」 「『駅前の角のあの店のプリン』だ。」 合言葉のようにそれを繰り返す2人を、マコトは不思議そうに見つめていた。 カナが台所に向かう。トウマはなにやら嬉しそうな顔で、そわそわと落ち着きが無い。 「何、美味いの、そのプリン?」 「お前知らないのか!?美味いなんてもんじゃないんだぞ!!」 「へぇ………。」 キラキラと眼を輝かせるトウマの様子に、マコトも少しだけ期待を膨らませた。 と。 「ん?」 マコトが、部屋の隅に奇妙な形の物体を発見する。 「なんだ、これ?」 引き寄せて、手に取る。野球ボール大の塊に棒が刺さったような形の、それは機械だった。 持ち手の部分にスイッチが付いていて、電池パックがある。 試しに、スイッチを入れる。ボールの部分が、低い音を立てて震え出す。 「マッサージ機か?」 「あ、それ、この間商店街のくじ引きで見た。」 マコトは震えるボールを、肩に当ててみる。 「うおおぉぉぉ、け、結構効くぞ、コレ………。」 「なんか、ジジ臭いなお前………。」 「いや、ホントだって………やってみるか?」 「………じゃ、貸して。」 トウマが手を差し出し、マコトがマッサージ機を………手渡そうとした、そのとき。 手が滑り、するり、とマッサージ機がマコトの手から逃げ出す。 「あ。」 「え?」 そして、次の瞬間。 「よーしお前達、とくと味わうが………。」 最悪のタイミングでリビングに入ってきたカナが踏み出した足の真下に、マッサージ機 が滑り込む。 「うわっ!?」 当然の如くカナはそれに足を取られて、バランスを失う。 カナの身体が傾き、手にしたお盆の上でプリンとスプーンが滑る。ご丁寧にもその蓋が 剥がされているのは、カナの心憎い計らいのお陰だ。 スプーンが床に落ちて音を立てる。そして、ぐしゃ、という音がそれに続く。お盆が 床にぶつかって高らかに鳴り、最後に、カナ自身が床に倒れこむ派手な音が響く。 「………………。」 トウマが、首を傾げる。その視線の先で、3つのプリンが無残な姿を晒していた。 「あ………………。」 マコトの顔が引きつる。その額に、冷や汗が浮かぶ。 そして。 「………オイ。」 「………は、はいぃ………。」 カナが床に突っ伏したまま呟き、マコトが弱々しく応える。 「お前………どうしてくれるんだ、バカ野郎。」 チアキばかりかカナにまでバカ野郎呼ばわりされ、しかしマコトは、反論が出来なかった。 カナが顔を上げる。カップから飛び出て潰れたプリンは、1つ、2つ………3つ。 「全滅とは………マコちゃんよ、やってくれるじゃないか………。」 「………ッ!?」 そこまで来て初めて事態に気が付いたかのように、トウマが眼を見開く。 「しかもこいつ等は………お客様用に残っていた、最後の3つだ………。」 「~~~ッッッ!!」 トウマは、更に絶望的な顔をする。マコトの顔が、みるみるうちに青ざめていく。 「覚悟しろ………食べ物の恨みは、怖ろしいぞぉ………?」 ゆらり、とカナが立ち上がる。そして、 「よーし、トウマ。」 潰れたプリンを前に絶望しているトウマに、声を掛ける。トウマが、泣きそうな眼を カナに向ける。 「マコちゃんを取り押さえるんだ。」 「………………?」 「そいつの犯した罪は、死に値する。よって、私達が処罰するッ!」 「ッ!!」 それを聞いて、トウマは1度大きく頷く。そして直後に、キッ、とマコトを睨みつける。 2人の視線を受けて、マコトは正にヘビに睨まれたカエルのようにすくみ上がる。 「い、いや、今のは、じ、事故で………っ。」 「問答無用、行け、トウマ!」 マコトの必死の弁解を無視して、カナがトウマをけしかける。腰が抜けたようになって いるマコトはあっさりトウマに捕えられて、後ろから羽交い締めにされた。 「フフフ………覚悟はいいな、マコちゃん………?」 カナは言いながら、足元に転がったマッサージ機を拾い上げ、ニヤリと笑う。 その殺気を感じ取り、マコトはどうにかトウマの腕から逃れようともがくが、何故か トウマの腕が全く外れる気配が無い。これも、食べ物の恨みの力だろうか。 カナがじりじりと歩み寄る。マッサージ機のスイッチを入れる。 「えっと、か、カナさん………何を………?」 その、直後。 「行くぞ………!」 「へ?」 カナはマコトの足を押さえ、開く。 「必・殺!!」 「え、ちょっと………!!」 そして。 「待ッ………!!」 マッサージ機を、あらん限りの力で押し付けた。 マコトの叫び声が、南家に響き渡る。 次
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ボーイズラブコミック作品リスト 前ページBLコミック/漫画家索引/あ行/う/内田一奈 『神サマも知らない』 販売巻数:4 著者:内田一奈 2007/12/07発売人気ロックバンドのカリスマヴォーカル・湧人が急死! 代役に立てられたのは双子の兄で平凡な大学生の泳二だった。湧人を愛していたギタリストのトオルは、彼にそっくりな泳二をせつない想いで見つめる。一方、湧人の恋人でプロデューサーの斐川が、事情を知らずに泳二にHを仕掛けるが!? 『熱のある夜』 販売巻数:2 著者:内田 一奈 2007/08/10発売自らの肉体を持たず、人の魂に棲む死神は、美しき予知能力者・吉良瑛介の「器」をもって現世に君臨していた。満たされぬ魂に現れ、その魂とひきかえに欲望を叶える、闇の法王――。果てしない欲望のかなたに瑛介が見るものは…!? 「ナーシサスブラック」続編!! 『ナーシサス・ブラック』 販売巻数:2 著者:内田 一奈 2007/07/06発売「やつを殺してくれ!」 欲望・嫉妬・怨念うずまく都会の闇に死神がささやく、「その欲望かなえたり」と。妖しくも美しい魔性の輝きが人を堕としていく…。雨が降るなか、フォトグラファー・吉良瑛介(きらえいすけ)と出会った美少年・忍の運命は…!? 『ぼくはこのまま帰らない』 販売巻数:6 著者:内田 一奈 2007/03/09発売対照的な17歳―― ごく普通の家庭に育った吉成律朗と、高校を中退しいかがわしい仕事で生計を立てていた天藤絢の二人は、中学時代からの親友だった。自暴自棄になっている絢を放っておけない律朗は、萌子という彼女がいるのに、絢の気持ちにこたえて関係を結ぶが…。 『INNOCENT』 販売巻数:1 著者:内田 一奈 2007/02/02発売オレとの『約束』を破ったその晩、彼女が逝ってしまった…。残された記憶の糸、罪の意識、混濁するこころ…。いくつもの想いをのみこんで、夏はもう終わろうとしていた。オレと彼女にとって、かけがえのない、短いあの夏――。 『「して。」』 販売巻数:8 著者:内田 一奈 2006/10/20発売岩崎和由18歳……たった一夜を過ごしたオトコが忘れられず恋に走る! どーでもいいけど左の薬指にはリングがキラリ。純愛? それとも略奪愛? 恋するオトコにルールはいらない。止まらないハイテンション・ラヴ・コメディー! ▲このページのTOPへ eBoysLove アズノベルズ BOYS JAM! Dear+
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5年後…マコトは育っていた。 高校に入学し、新鮮みも薄れ、校内の施設の場所も覚えてしまった頃の話である。 「おいマコト。ちょっと来い」 「うぇ!? ぉ、おーぅ、わかった…」 チアキによるマコトの呼び出し。このクラスの日常風景の一つである。 「お、まただよ…マコト、いや…」 「大変だな、あの、」 ちなみにマコトの今現在の呼び名は、そう── 「「"舎弟"も大変だな」」 「チアキもなぁ、スタイルもいいし頭もいいし」 「性格と言葉遣いが良ければ、それこそアイドルだけど、なぁ?」 「アレじゃなぁ。なんたって、"番長"だしな」 「しかも三代目らしいぜ。姉2人も番長だったらしい」 「おお、こわいこわい」 「まったく、番長番長と。教室でも休まらないよまったく」 「た、大変だなぁ、チアキ」 「…なんだマコトどうした。顔が赤いぞ」 「え?あ!? いや可愛いから、じゃなくてっ、その…走ったから!」 「そうなのか? むぅ、悪かったな」 「いっ、いいっていいって! おお、オレとチアキの仲だから!」 「…そうだな。小学校からずっと一緒か」 「ぉ、おー? そ、そろそろ授業が…」 「む? そうか…よしマコト、ちょっとこっちに」 「へ? 何だチアキ? 何かーっ!?」 「うるさいよバカヤロウ! ただの感謝の印だ!」 「でっでででも! キスって、えっ!? え??」 「額にくらい遊びでもやるだろう。いちいち大袈裟なやつめ」 「あ、ああぁ!」 「まっ、マコト? 顔が信号機のようになってるぞ?」 こうしてマコトは保健室に。そして「番長に顔貸せと言われた男子生徒が保健室送りにされた」という新たな番長伝説が増えるのであった。 おわり 名前 コメント 8.1-858氏 8.1スレ目 保管庫
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そこにいるのはご存知、南家三姉妹であるハルカ、カナ、チアキ そしてそれぞれの恋人である、ナツキ、藤岡、マコトの6人 ここは南家のマンションのリビング そして今、カナvsマコトの壮絶なオセロ合戦が行われている 「ふっふっふ…、馬鹿のくせにやるじゃないかマコト! この私を苦戦させるなんて……」 「ふふん、その馬鹿な俺に押されてるカナに馬鹿って言われる筋合いはないよ!」 どうやらマコトが押しているようだ 「だが甘いなマコト…ここに私が置けば大量に取れるんだ!」 誇らしげにマコトの白いオセロを裏返していく…、だがしかし!! 「かかったなカナ! それは罠だ! そこに置かせれば俺は角がとれる!」 「なんだと!? し、しまった!!」 そしてマコトが角にオセロを置こうとしたその時 「待てマコト! そこに置くのはやめるんだ!」 「なんだよカナ、真剣勝負なんだから待ったは無しだぞ!」 「むむ、だがマコト…お前がどうしてもそこに置くというのなら……」 「いうのなら?」 「チアキにマコちゃんの正体がお前だとバラす!」 「なん…だと…?」 「いろいろややこしいことがあって、なんとか恋人になったお前たちだ……、ここでマコちゃんの正体がお前だとわかればどうなるかな?」 「き、汚いぞ! たかがオセロでそんなことするなんて大人気ないぞ!」 「ふふふ、なんとでも言え! お前にはたかがオセロかもしれないが私には重要なんだ!!」 「ぬぐぐ……」 カナの大人気ない行動に手も足も出ないマコト しかしそんなマコトに救いの手が! 「おい馬鹿野郎」 「チ、チアキ!!」 「なんだよチアキ、邪魔すんなよ~」 「ここからじゃ話の内容はわからなかったが、カナがマコトを困らせてるのはわかった……」 「おいカナ! お前は馬鹿野郎のくせに私のマコトを困らせるんじゃないよ!!」 「なんだと~!? 部外者が勝負に口出すんじゃないよ!! それに……」 「私のマコトを困らせるな、とか言うんだったらお前も私の藤岡の脚から降りろよ!!」 「な!? それとコレは話が別だろう!」 「別じゃないよ!! お前が藤岡から降りないなら私にも考えがある!!」 するとカナはいきなりマコトに抱きついた 「おい馬鹿野郎!! 私のマコトに何するんだ!!」 「ふふん、お前が私の藤岡から降りないなら私はマコトに抱きついて離れないぞ!!」 「なんだと~!? マコトを離せ~!」 「だったら藤岡から降りろ~!」 なんだが険悪な雰囲気である 「ちょ、ちょっと落ち着いてよ南!」 この空気を見かねた現在チアキの椅子になっている藤岡が割り込む 「そうだよ! チアキも落ち着いて!!」 続いて現在カナに抱きつかれてるマコトも割り込む だが…… 「「ちょっと藤岡(マコト)は黙ってろ!」」 今の彼女たちには恋人の制止の言葉より自分以外の女がくっついているほうが遥かに重要なのだ しかしそのまま険悪ムードを突っ走るかと思われたその時、天からの一声が! 「カナ、チアキ、二人ともやめなさい!!」 そう、三姉妹の長女にしてこの南家の長であるハルカである 「二人ともケンカしないの! じゃなきゃオヤツ抜きにするわよ?」 「「むむむ…」」 姉らしく止めに入るハルカ だがその現在の姿は姉らしい態度とは裏腹なものであった なぜなら今のハルカの姿は、恋人のナツキの腕に自身の腕を絡めナツキの肩に頭を預け寄りかかっている、という姉らしいとはいえないものだからである しかしそんな態度の言葉でもカナとチアキにはオヤツ抜きの言葉は効いたらしい 「おいカナ」 「なんだよ」 「このままではラチがあかない、お前だってオヤツ抜きはいやだろう?」 「もちろんだ!」 「だからここはお互いに妥協しよう、私も藤岡から降りるからお前もマコトを離せ」 「本当だな?裏切ったりしないだろうな?」 「そんなことするか! いいか? いっせーのっせで交換だぞ?」 「よ~し、いっせーのっせだな?」 「「いっせーのっせ!!」」 瞬間カナはマコトから離れ、チアキも藤岡から降りた そして二人は自身の恋人に抱きつく 「大丈夫っだたか? マコト…」 「チアキ…俺は大丈夫だ!」 「本当だな? 変なこととかされてないだろうな?」 「へ、変なことってなんだよ?」 「平気か? 藤岡~」 「み、南…俺は平気だから………」 「本当だな? チアキに対してオカシな気分とかになってないだろうな?」 「南!? 何言ってるの!?」 「お前がオカシなことをしていいのは私だけなんだからな!!」 「南!! チアキちゃんとかいるから!! 教育上よろしくないから!!」 そんなこんなで三姉妹の下の二人が騒いでいると…… 「まったくカナとチアキったら……、ナツキ君ごめんね? 騒がしくって」 「いや…全然そんなことないっす」 ここにきて初めてナツキが口を開いた ここまでナツキがずっと黙っていたのは何もナツキが口下手なだけだからではない 確かにナツキは口下手だがそれ以外にも理由はある その理由とはずっと自分によりかかっているハルカだ ナツキの腕に自分の腕を絡めているため、当然ナツキの腕にはハルカの胸の膨らみが押し付けられ感触が伝わってくる さらに肩に頭を預けられているのでハルカの髪のシャンプーのいい匂いが漂ってくる そう、ナツキは自分の欲望と戦っていたのだ ハルカと付き合いだして女性への免疫もある程度できた 以前のように鼻血を出すことも無くなったが下半身にある自分自身の分身はそうもいかない ナツキ自体はだいぶ丸くなったが、下半身の分身はまだまだ硬派でやんちゃなのだ (なんとかせねば………) 硬派でやんちゃな分身を鎮めようとバレないように試行錯誤をしているが…… (あら? …………ふふふ、ナツキ君ったら////) どうやらハルカに感づかれてしまったらしい 「ねえナツキ君? 私の部屋に行かない?」 「え? どうしてっすか?」 「ちょっと二人で話したいことがあるのよ」 そういってハルカはナツキの下半身に手を伸ばした (………!!) 「ウ、ウス! /////」 流石のナツキも察したらしい 「じゃあカナ、チアキ、私たち部屋に行くからあとよろしくね?」 そういってハルカとナツキは部屋に行ってしまった 「なんだよ~ハルカの奴、勝手に部屋に引っ込んで……」 「こうなったら藤岡!! 私たちも私の部屋にいくぞ!!」 「ぅえ!? ちょっと待って南! 部屋に行くってことは……それは……その……////」 「なんだよ~嫌なのか?」 「嫌じゃないよ!! 全然嫌じゃない!! でもチアキちゃんとか小学生もいるわけだし……やっぱ道徳的に……」 「嫌じゃないならさっさといくぞ!!」 そういってカナは藤岡を引っ張っていってしまった そしてリビングに残されたマコトとチアキ 「チアキ…、ハルカさんやカナはなにしに行ったんだろう?」 「そんなの決まっている」 「え?」 「オカシなことに決まっているだろう!!」 「ぇえー!! 何言ってるんだよチアキ!! /////」 「私だっていつまでも子供じゃない!! オカシなことぐらいもう知っている!!」 「チ、チアキ?」 「はからずもハルカ姉さまやカナがオカシなことをしているのを見てしまったこともあるんだ!!」 「チアキ? とりあえず落ち着こう! な?」 「そうだマコト」 「な、なんだよ?」 「私たちもしてみるか?」 「ぇえー!? ///////」 「安心しろ、予習はハルカ姉さまやカナのを見てばっちりだ!!」 「チアキ! ストップストップ!!」 「本来なら初めては男のお前にリードしてもらいたいところだがお前は馬鹿だからな………、すべて私に任せるといい」 そしてチアキはマコトを押し倒した 「ちょ、チアキ? チアキーーーーーーー!!」 続く いいねぇ、こういうバカップルネタもw -- 名無しさん (2012-10-31 08 30 25) ちあマコはよ -- 名無しさん (2013-09-01 13 19 56) 名前 コメント 9-378氏 9スレ目 保管庫
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「……なんのことだ?」 「とぼけるな!俺のこの勝利は、お前の手のひらの上のものだ!あの時――列車事故直後――煙がたちこめる中に お前がいたとき、お前はレーダーも使わず、俺に撃たれるのをわざわざ待った!いいや、そもそも真剣に戦う気が あるのなら、あんな場所に留まったりはしない!」 マコトはシートからたち上がり 、金網に駆け寄って、ありったけの呪詛でタナトスを罵る。 「お前は最初からまともに勝負する気は無かったんだ。チートを使って自ら弱体化したりして……! そんな状況で勝っても、俺の復讐は達成されない。対等な立場で戦って勝たなきゃ、 俺はお前たちとまるっきり同じだ!悪の中でも『最悪』なお前たちと……」 「ほぅ」 「俺が負けたら、お前たちの勝ちだし、俺が勝ったら、お前たちは俺の復讐を台無しにしてやったのだから、 やはりお前たちの勝ちだ。ふざけるな!こんな勝負……」 そこまで言って、マコトはタナトスの肩が震えているのに気がついた。 最初は怒りのためだとマコトは思ったが、タナトスの声が聞こえて、違うとわかった。 ――奴は笑っている。 「はははははははははははははは!」 突然、タナトスが立ち上がり、両腕を広げ、天を仰ぎ、高笑い。 「ははははは!いや、まったく――私の見込み通りだった!」 彼は言った。 「君が最後まで気づかなかったらどうしようかと!もしあそこまでやって、君が気づかなかったら、 私は君を撃たなければならなかった!実を言うと、この程度、私にはピンチでもなんでもないのさ!」 タナトスは狂喜して腕を振り回す。仮面の奥の妖しい光がますます強くなっている。 「くく、く、私はひとつ君に訊きたいのだが――」 タナトスは金網に近づく。二人は再び金網を挟んで向かいあう。 「君は、なぜ生きている?」 タナトスはマコトの目をのぞきこんでいた。意外にもそこに威圧的な光は無く、 代わりに澄んだ川の水のような、純粋なものが見えた。 「決まってるだろ……」 ――不思議なことに、このとき自身が何と答えたか、マコトはどうしても思い出せないのだった。ただ、 その言葉はほとんど反射のように自然と出たものであったことだけは覚えている。 それを聞くとタナトスは一瞬不快そうなそぶりをみせたが、すぐに思い直したようで、腕を組み、小さく言った。 「……それが答えか。なるほど。」 「いったい何なんだ。」 「いや、なに。タルタロスもこれで終わりかとね。」 「……え?」 また、意外な言葉。 観客たちもわけがわからないようで、今度は徐々に騒がしくなってきていた。 「いい機会だ。少しゲームを中断し、昔ばなしをしようか。」 タナトスはマコトから視線を外し、観客たちを見渡した。 「私は、先代の『コラージュ』だった。」 ざわめく観衆。 「私の能力をもってすれば、そこまでの地位にのぼりつめるのはさして難しくはなかった。 そのころの私はまだ現状に満足していて、まさかタナトスを名乗ろうなどとは考えもしなかった。」 そのタナトスの語りを別室で静かに聴いていたコラージュは、じゃあ、自分を作ったのはタナトスだったのかと驚く。 「私の心境を変えたのは、あるひとつの疑問を抱いたからだ。それこそが、『人は、なぜ生きるのか』。」 タナトスはまたマコトを見た。 「人類が文化というものを身につけてから、数多の知識人に提起された無数の命題よりも、 これ以上に解答困難なものはあるまい。だが私は難問ほど燃えるたちでね。どうにかできないものか、 考えたのだ。……そして、このタルタロスというシステムを利用することを思いついた。」 仮面の奥で、彼は微笑む。 「ここに集まるプレイヤーたちは、自分の命も、相手の命もなんとも思っちゃいない正真正銘のクズばかりだ。 君が最初に戦ったナカジマくんも、その次に戦ったケルベロスも。正々堂々と戦うつもりはもちろん無いし目的は誰も同じ『カネ』だ。」 マコトはなぜか動悸が激しくなってきているのを感じていた。 「だが、君は違った、アマギくん。」 彼の語り口はきわめて優しい。 「君は対等な立場で戦うことを好み、その目的もカネなどというくだらないものでなく、 また自分の命を投げ出しているわけでもない。私は君のような健全な精神の持ち主が自ら命を賭けるに値する目的こそ、 『人が生きる目的』だと考えた。……そう、タルタロスは君を待っていたんだ。」 「なに……?」 「さっきの戦いは、今この瞬間にも君があの美しい心を失っていないか、それを確かめるテストだったんだ。 君は目前の勝利や、醜悪な外見に惑わされなかった。そして、タルタロスは今その役割を終えた!」 そしてタナトスは再びシートに近づき、マコトを一瞥した。 「君の回答は斬新なものでなく、使い古された陳腐なものではあるが、むしろだからこそより答えにふさわしいのかもしれない。 なかなか哲学的だが、その実至極単純なことをひと言で言い表しているのも気に入った。 ……席に戻りたまえ。お礼に、君に勝利をプレゼントしよう。」 「なに?」 「タルタロスにもはや存在価値はない。幕引きのときだ。」 タナトスの静かな言葉を理解して、また観客たちは騒がしくなる。 「それは……死ぬつもりか、タナトス。」 マコトの言葉に彼はゆっくりと首を振った。 「もちろんそんなつもりもない。」 そうして彼は自らの顔を覆い隠す鉄仮面を指す。 「この場にいる人間は誰も私の正体を知らない、そうだろう?」 そう言った直後―― 「――でもそれは逆に、誰もあなたがタナトス本人であることを証明できないということでもあるわよね?」 ――冷たい針のような声がタナトスを刺した。 辺りは再び静まり、タナトスとマコトはその声がした方に顔を向けた。 二人のいる檻の外側、タナトスに近いところに一人の女性が立っていた。背の高く、顔立ちも整った女性だ。 黒い革のジャケットに、黒い長髪、サングラスで顔を隠し、シルバーアクセサリーをジャラジャラと身につけた様は どこからどうみても街の女ギャングで、容易に近づき難い雰囲気を醸し出している。 もし彼女が沈黙したままだったなら、マコトは彼女がアヤカ・コンドウであることには気づかないままだっただろう。 タナトスは顔を彼女に向け、威圧的に見下ろした。 「君は――」 「考えてみればおかしな話よ。」 アヤカはさらに声を張り上げる。 「幾度となく戦って、それでも一度たりとも敗北しないなんて、他のスポーツなら八百長を疑われて当然じゃない? いくら実力差があるとしても、あなたに挑んでくるのは、それなりの自信がある人たちがほとんどなのに。」 また会場が静まりかえる。さっきまでとはまた別種の不穏な空気が漂いはじめていた。 「もしかしたらあなたは、相手のチートデータに何か細工をしていたのかもね。換言すれば、あなたは――」 とどめの一撃。 「――『サイクロプス』なんじゃない?」 彼女の言葉は完全に世界を凍らせた。あれほど熱狂的だった観客たちは皆困惑した表情でタナトスと、 金網を挟んで彼に相対する謎の女性を交互に見ていた。 この状況を正確に理解していたのはそのふたり以外にはマコトだけだった。 マコトは今タナトスのそばでビニールをかぶせられ、鎖で繋がれている彼女こそがサイクロプスだと知っているので、 アヤカの意図はすぐに解った。 マコトはタナトスを見る。彼は一見いつもの落ち着きはらった様子だが、どことなく焦っているようにも見えた。 「……そうだ、その通りだ!」 声をあげるマコト。 「お前が本当にタナトス本人なのか、証明してみせろ!」 「しかし、そうはいっても、手段が無い。」 「あら、あるじゃない、簡単なのが」 アヤカは冷たく言い放つ。 「その仮面をとればいいだけよ。」 もう何度目かはわからないが、また会場がざわつきはじめる。 タナトスは首を振った。 「たとえこの仮面をはずしても、君たちは私の素顔を知らない。無意味だ。」 「そうだな。たしかにアンタの素顔は知らないが――」 マコトはにやりとした。 「――サイクロプスの素顔なら、俺が知っている。アンタが八百長疑惑を晴らすにはそれで充分なんじゃないか!?」 「その必要がないことは君もよく知っているはずだ。」 そうして彼はそばのイナバを顎でしゃくって示す。しかしマコトは肩をすくめた。 「さぁ?なんのことかぜんっぜんわかんねーな。」 タナトスは黙り込んだ。静かになった彼とは対照的に会場は再び熱を帯びてきていて、 彼らがあげるかけ声はいつのまにか「OFF MASK!!」のコールに統一されていた。 マコトとコンドウはタナトスを睨みつけていたが、やがて彼が諦めたようなそぶりをするのを認めた。 「……いいだろう。外してやろう。」 また、会場が大きく揺れる。 タナトスはゆっくりと腕を上げ、後頭部にまわすと―― ――いきなり袖口から小型の拳銃を飛び出させ、発砲したのだった。 ……その様子を観客席から眺める、ひとりの人物がいた。その人物は目深に被った帽子とコートのフードで顔を隠し、 眼鏡の奥から冷めた目でマコトたちの様子をうかがっている。 どうやら男性らしいその人物は銃声にも動じず、冷静に現状を分析すると、 指先で懐のナイフの柄を撫でた…… 火薬の臭いが鼻につく。マコトは何が起こったのか理解できなかった。 マコトは金網の向こうにタナトスともうひとり女性を見ていた。 小柄な、子供のような、活力に溢れた、素敵なヒト―― だが彼女は今、死神の足下に崩れ落ち、胸から鮮やかな血をダラダラと流して―― ――マコトは絶叫した! 金網に突進し、指でめちゃくちゃに音を鳴らし、わけのわからないことをわめきちらす。 そんな彼をひややかにタナトスは見つめ、まだ煙の出ている銃をその死体のそばに落とした。 「……どうした、彼女のことはどうでもいいんじゃなかったのか。」 嘲るように彼は言う。 「殺してやる!殺してやるぞ!クソ!殺してやる!殺してやる!!」 「いいだろう!さぁ、私を殺してみろ!」 その言葉とともに、ついにタナトスは仮面を外した。 ――同時に、世界から音が消えた。 今まで、何度も周りが静かになることはあった。だが、これほどまでに静まりかえったことはなかった。 しばらくして、マコトはその静寂が現実のものではなく、自身の内からくるものであることに気付いた。 気づくと同時に、色彩と騒音の洪水が頭蓋骨の内側で暴れ回った。 タナトスの素顔を目にした衝撃のあまりいつの間にか床にへたり込んでいた自分を発見し、 とうとうマコトは金網のむこうの現実を受け入れるしかないと理解し、同時に胃の中からこみ上げてきた熱いものを 目の前にまき散らす。 全身から冷や汗を流して、マコトはタナトスを睨みつけた。 「……そろそろ大丈夫かな?アマギくん。」 ボイスチェンジャーを通していない声はしっかりと筋が通っていて、その快活な人格にふさわしいものだった。 生命力に溢れた顔立ちは死神のイメージからかけ離れていて、仮面の奥に輝いていたあの金の双眸が無ければとても 連想されることはないだろう。 マコトはその瞳をしっかと睨み返して、絞りだすように、叫んだ。 「なんで……あなたがっ!!」 死神は――ミコト・イナバは微笑んだ。 マコトはしかしそれでも頭のどこかで現状を否定しようとしていた。 あれがイナバさんのはずがない。 あれがイナバさんなら、あれのそばで倒れているのはいったい誰なんだ。 そうだ、それにタナトスとイナバさんでは全然体格が違う。 きっと見間違いだ、イナバさん―― 目をとじ、ゆっくりと開けると、イナバはタナトスのマントを脱ぎ捨てていた。マントの切れ目から見えたその内側は、 カーボン製のフレームで体格を大きく見せられるような仕掛けが施されていた。 ふらつきながらも金網に手をついて立ち上がり、今度は倒れている方のイナバに目を向けると、 ちょうどタナトスが彼女の首の鎖を外し、頭に被せられていたビニール袋をはぎとるところだった。 顕わになったのは、少女の顔だった。 「……誰だ、その人……」 思わずこぼれたその言葉を聞きつけて、イナバはこちらをふりむく。 マコトはタナトスを――否、イナバを見た。 彼女は身体にフィットした黒い近未来的なデザインのスーツを着て、冷酷な光をたたえた瞳で温かく微笑んでいる。 その中身と外身のぞっとするほどの温度差にマコトは嫌悪感をおぼえた。 「この子はね、こう見えてすごく悪い子なんだ。学校ではいじめっ子たちのリーダーで、男の子をひとり不登校に追い込んでいるし、 知り合いの大学生といけないことだって何度もしてる。趣味は万引きだし、小学生にしてなんとタバコもお酒もやっているんだ。 ケンカして両親を包丁で刺してもいるし、弟が事故で亡くなったときも葬儀の席でずっと笑っていた――」 「……そうなのか。」 「――なんてことは全部ウソ。名前も顔もしらない、キミと別れたあの晩にたまたまその辺を歩いてた子だよ。」 おどけて肩をすくめる彼女の笑顔は、以前にあの部屋で見たものと同じだった。 「『誘拐はなるべく関係・連絡・トラブルを無くす。』基本だから、誘拐するときは参考にしてね。」 彼女は軽い調子でそう言うと、足下の死体を、汚いものでも振り払うように小さく蹴って、 今度はアヤカ・コンドウを見た。 「……これで満足?アヤカ・コンドウさん。」 「彼の反応を見るに、やはり、サイクロプスだったようね。」 観客たちは成り行きを見守ることにしたようだ。すっかりおとなしくなっていることにマコトは気づく。 「ご名答。それにしても、私がサイクロプスだとなぜ判ったの?あなたには本名も性別も教えなかったのに。」 「幸運よ。確証はなかった。」 「嘘つき。」 「あなたもね。」 だが実際アヤカ・コンドウの推論はある幸運に支えられたものだった。 アヤカ・コンドウはゲーム開始からこの会場にいた。そこで彼女はタナトスが人質に少女を連れてきたのを見て、 こう思ったのだった。 (マコト・アマギに姉や妹はいないし、まさか母でもないだろう。親しいクラスメイトは全員男だし、 恋人もいないのは調査済みだ。あれは誰だ? まさか……サイクロプスか? サイクロプスが女? ということは、まさか) と、ちょうどその時彼女に声をかけてきた人物がいた。その人物は帽子とフードで顔を隠した、 眼鏡をした人物で、アヤカに協力していた。その人物は、以前にあの人質とマコトが一緒に歩いているのを見たと、 まだその時は知り合って間もないようだったと言った。 (その日は、私がサイクロプスに依頼をした直後……!) アヤカはタナトスが少なくとも女性であるということは知っていたので――これにもまた理由はあるが、 今は関係がない――そうしていよいよ『タナトス=サイクロプス』の疑念を強め、タイミングを見計らって行動を起こしたのだった。 「でもわからないわね。」 アヤカは髪をかきあげる。 「まさかあなたは本当に八百長を? あなたは悪党だけど、そんなことはしないと思っていたわ。」 「こんなこと言っても信じないだろうけれど」 応えるイナバ。 「私はチートデータにそういった仕掛けを施したことは無いよ。誓ってもいい。」 「誰が信じると? 」 「そうだね、たとえば――」 困ったように少しだけ首を傾げる。 「アマギくん、とか?」 視線に射抜かれてマコトは緊張した。イナバはなおも優しく微笑んでいる。 「君も、私がこの地位を守るためにそんなことをするようなヒトに見える?」 訊かれてマコトは首をふる。 「アンタが本当にイナバさんなら、卑怯なことは嫌いなはずだ。」 「その言い方、気になるな。」 「アンタは……本当にイナバさんなのか。」 マコトはそう言った。きっとその場のほかの人間にはとても間抜けな質問に聞こえただろう。 だがそれでもマコトには、あの家で見たミコト・イナバと、今目の前のミコト・イナバが同一人物だとは信じられなかった。 「あんたがタナトスだなんて、おかしい。納得いかねーよ。」 「おもしろいことを言うね。」 彼女は目を細める。アヤカもマコトを懐疑的な目で見た。 こぶしを握る。手汗がひどい。 「イナバさん、もしあなたが最初からタナトスだったなら、なんで俺たちに協力したんだ。」 そう、その通りだ。マコトはキムラとの戦いを思い出していた。 あのとき、ゲーム機器が故障したのはサイクロプスのせいだが、そのときにはすでにサイクロプスとアヤカとの協力関係はできていたのだから、 タナトスの立場としては、タルタロスの脅威となるマコトは消しておきたかったはずだ。しかしサイクロプスはマコトを助けた。 その他にも、サイクロプスがマコトとアヤカにした協力の度合いを考えると、タナトスはまるでタルタロスの首を締めているように感じられる。 だからマコトは納得いかなかった。 「おかしいじゃないか……そんなこと」 「ああ、そのこと?」 ミコトは指を2本立てる。 「理由はふたつ。まずひとつめはもう言った。」 マコトが理解できないようなのを見て、ミコトは続ける。 「『人はなぜ生きるのか』、という命題の答えを、君なら出してくれると思ったからだよ。そのためには、 きみが『安全に、しかし真剣に死と向き合い続ける』ことが必要だと考えたんだ。難産のほうが、よりそれっぽいからね。」 マコトは奥歯を噛み締めた。 「そしてふたつめ。それはこの計画を知ってから判断したんだけれど……」 ミコトは前髪を整える。その所作は可愛らしい少女そのもので、いよいよ死神のイメージからかけ離れている。 「この計画はつまるところ、『タルタロスで私を倒す』ということが肝心要、一番重要なところなんだよ。 ここが失敗すれば残念なことになってしまう。たぶん、これは立案者の思惑が多分にあると思うのだけれど、 くわしくはいいや。それが理由だよ、つまり」 言いながらミコトはマコトに歩み寄る。金網を挟んだマコトの身体のわずか数センチ前で立ち止まり、 金の瞳を見開いてマコトをのぞき込み、言い放った。 「君なんかが私に勝てるわけないじゃん」 また彼女が微笑む――マコトは目の前でその表情を見て、ようやくその柔らかな口元に隠された真意を理解した。 あの笑顔は互いの友好のためとか、周囲の雰囲気を良くするためとか、そんな目的で形作られたものじゃない。 大人が節度を保たずはしゃぐ子供を見て自然に笑みがこぼれるように、猫同士がじゃれ合うのを見てそれを不快に思わず愛おしく感じるように、 『自分とは次元が違う』と感じているから、だから出る微笑みなのだ。 良く言えば『強者の余裕の表れ』、悪く言えば『己以外の全てを同列とは思っていない』顔だ。 コイツははじめから、俺たちのことをこれっぽっちも気にしてはいない! マコトは激昂し、ミコトを殴りつける、が当然金網に阻まれる。耳障りな金属音が弾ける。 残響音が消えないうちにマコトは声を荒げて言った。 「てめぇ!俺と勝負しろ!」 「いいよ。」 あっけらかんと応える。 アヤカはマコトを一瞥し、それからなぜかまた静かに人ごみに紛れて消えた。 「もう一度対等な条件でだ!叩きのめしてやる!」 「それはかまわないけれど、今このゲームをリセットはできないよ?」 「なに……?」 ミコトは困ったようなしぐさをする。微塵も焦燥を感じないその様子が今のマコトにはなによりも腹立たしい。 「当然だよ、今リセットしたら君に賭けていたお客様が可哀想だし、1度スタートしたイベントを中止するのは開催側にしても結構痛手なんだよ。」 マコトの神経はますます逆撫でされて、そのためにまた拳に力が入ったが、思いなおして、冷静になることにした。 「じゃあ、どうすればアンタと対等に戦えるんだ。」 するとミコトはにっこり笑って 「そのためのカギはもう持っているよ、『オルフェウス』」 はっとした。 「だけど、ソレを使うのは……!」 「嫌?」 「ソレを使うと、俺はお前たちと一緒に……」 「わからないかな、使った時点で君の勝ちなんだよ? もし君が負けても、私は信頼を失ったままなんだ。 勝っても負けても、タナトスはタルタロスから消えざるを得なくなる。」 言われてみればその通りだ。 「だから、使いなよ……チートを。」 マコトはうつむいた。 たしかに、チートデータ『オルフェウスの竪琴』が入ったICカードは今持っているし、 それを使えばマコトの望むような条件で戦えるだろう。 だが、チートだ。 チートは、ずるだ。 不正に不正で応えたら、いよいよ自分はタルタロスに敵対する資格が無くなる。完全な悪になる。 悪。 人殺しである自分がこんなことを考えるのもおかしいのかもしれないが、やはり、悪は嫌だ。 悪。 しかし待て、コンドウさんに従って、悪の権化であるタルタロスを倒すのは本当に悪ではないのか? 悪。 彼女の目的はタナトスへの復讐だ。きっとそれはタナトスの殺害で達成されるんだろう。 それに加担するのは悪じゃないのか? 悪。 そもそも『悪じゃない』ってなんだ?悪じゃないなら正義なのか? 『タルタロスに関わった時点で全員が悪い』というタナトスの言葉を自分は肯定していなかったか? 悪? 悪……。 悪! なーんだ、そうか。 マコトは顔を上げ、ポケットからカードをとりだし掲げた。 そうだ。そもそも最初から善悪とか、そんなものにこだわる方が間違っていたんだ。 世の中は人を傷つけるもので溢れている。ナイフでも、銃でも、言葉でも、態度でも、 そういったあらゆる『傷つけるための力』は本来、みんなまとめて悪なんだ。世界は悪に満ちている。 それが『正しい』として認められるためには……。 「勝負だ。」 勝てばいいんだ。 お互いに、自らが納得するために必要な手を出しつくし、それでも負けたら悪なんだ。 正義は勝たなければいけないんだ。勝たなければ正義じゃないんだ。 こんな簡単なこと、俺はなにを悩んでいたんだろう。 イナバはまたにっこり笑い、手でグラウンド・ゼロのシートへとマコトを促す。 マコトはぎっと彼女を睨みつけたまま、席に戻った。 画面はさっきの膠着状態のまま止まっている。 「オイ!」 叫んだのはマコト。 「なにをしてんだ口だけ男……、盛り上げろ!」 その言葉で実況席の口だけ男は我にかえり、慌ててマイクをつかんだ。 「あ、あー!あー!YO!マイクチェック、チェック、チェック!すまねぇオーディエンス、意識が月までぶっ飛んでたぜ!」 口だけ男が実況を再開するのと同時にまた観客席はざわつきはじめる。 「なんつーかいろいろと衝撃の事実の連続でオレら置いてきぼり! タナトスとオルフェウスとあの謎の女に何があったか知らねーが、俺たちの関心はそんなとこにはねーんだぜ!?」 応える観客。 「そう、つまり!」 会場が沸騰する! 「熱いバトルと!熱い血だあああああ!」 あっという間にまた最高潮!会場は観客たちの雄叫びでびりびりと震えた。 「なにやら計り知れない因縁によってこのふたりは戦わなきゃいけねーようだ! オルフェウスとタナトス、ギリシャ神話じゃタナトスの勝ちだが、果たしてリアルじゃどうなることか! まさかまさかのラウンド2!前代未聞のラウンド2!空前絶後のラウンド2!」 レバーを握る。 「レディイイイイイイイ、ゴウ!!」
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雲が太陽を隠せば、その間から覗いた空の青は深くて鮮やかで。 それなのにすっきりとしないのは、雲がきっと低いところを泳いでいるからで、その青の深さと鮮やかさにため息をついた。 空って不思議だ。 どうしてこんなにキモチと繋がってるんだろう。 マコトは兵舎から少し離れたところにある桜の木の下に座って、また一つため息をこぼした。 悲しいぐらいに青い青。 それはきっとこの空だ…、と、勝手に決め付けて、ぼんやりと思い出すのは同じような背中と笑顔の彼女こと。 固く握られた右手の中には手紙。 『 Dear Makoto この手紙を見てる頃は、もう出撃の前日ぐらいかな? 私はチョー元気っス。アサミちゃんもリサちゃんも元気だよ。 』 そこから始まって、3枚に亘ってぎっしりと書き込まれた近況や思い。 電話もないわけではない。 使っちゃいけないわけではない。 声が聞きたいと思うけど、でも聞いたら離れがたくなりそうで…。 言葉や声は胸に残る。だけど形には残らない。 でも、文字は違う。 文字は形に残る。そこにある言葉は胸に残る。声は胸から引っ張り出せばいい。 いろいろと思いを馳せる。 ほっとしたりドキドキしたり、励まされたり。 けれど、時々不安にもさせる。 『 ドジって怪我しちゃったよ 』 本当に一瞬、心臓が凍りついた。 同じ日に届いたアサミとリサの手紙にも書いてあったし、大事ではないってわかっている。 でも結局一睡もできなくて、“超”が500個くらい付きそうなほどのハイテンションで食堂に入ったら、ミキに怪訝そーな顔でにらまれた。 気持ちばかりが自分を置いて、遥か時間と距離とを飛び越えて行こうとしたがる。 「…アイちゃん…」 葉桜の向こうに広がる灰色の雲の間から見える青は、さらさらと風に乗って歌う葉の柔らかな黒のおかげでぐっともう一段の深みを増している。 ドドドドドドドド… エンジンの唸る音。 『どーしたの?』 声を掛けて、リカはぎゅっと手の中で長細く丸まった空色の便箋に気づいた。 昨日の夕飯を過ぎたあたりからずーっとそわそわしているマコト。 『なんかあった?』 少しだけ落ちた声のトーン。 うなずくこともせず、ただ目線をあげてじっとリカを見た。 『…そっか』 たぶん、それだけ不安そうな目をしてたんだな…と、ふと、気づいた。 ザザザザ… マコトの座る桜に向かって近づいてくる幌を外した一台のジープ。 『イシカーさん…。私……』 『うん』 にっこりと微笑んで、背中を一つ叩かれた。 『待ってて』 『は…はい』 『カオたんにおつかい頼まれててね、向こうに行くから』 その瞬間、キモチが天に昇った。 けど、待ってるその5分の間に地面にズドンと突っ込んで深く深く潜っていった。 立ち上がって木陰から出ると、ちょうどジープが隣で止まった。 「ごめんね。お待たせ」 「いえ。すいません」 ぺこりと頭を下げると、リカは助手席を指差した。 ぐるっと前から回り込んで助手席のドアを開けて乗り込むと、ぬっと後部座席から誰かが頭を突き出した。 「よっ」 「フジモトさん!?」 「ひどいなぁ。マコッチャーン。ミキのこと無視しないでよー」 「いえいえいえ。そんなつもりじゃないですよぉ。目に入んなかっただけで」 「それも何気にひどいって」 「ふふふっ。たしかにね」 「あっ! ひどっ! イシカーさんまで。そんなことないですってば」 「いやいや。そんなことあるでしょ」 「ないですって!」 「あーどうかなぁ…」 言いかけて、ミキの目にちらりと飛び込む右手に固く握られた手紙。 「あぁー…。ほら。笑った笑った」 さすがにからかいすぎたかと、ちょっと涙目になってきているマコトの頭をイイコイイコとなでた。 「泣いてませんって。ってゆーか、何でいるんですか?」 「つきそいだって」 リカの言葉に、単に退屈してただけなんじゃぁ…という顔をするマコトに、ふふーんと微笑みかけてぽんぽんと肩を叩く。 「まっ、そーいうことなんで」 「外出許可取りに行ったら偶然会っただけなんだけどね」 「あー。そーなんですかぁ」 「そーなんですよ。実は」 「じゃあ、いこっか」 リカはギアをドライブに入れると、ぐっとアクセルを踏み込んだ。 ヴゥゥゥゥゥーーーーン… ジャリ…ザリ……ザザザ……。 低い唸り。 時折タイヤが砂を噛んでザラザラと騒ぐ。 最前線に程近いベースキャンプから第8特別航空部隊、通称さくら隊が駐屯する基地までは車をかっとばして約1時間。 荒れたアスファルトの道路を、オープンカーよろしくジープは青く茂る広野を横目にまっすぐまっすぐに走っていく。 カーステレオから流れる甘い恋のバラード。 流れる地平線。 頭の上をすれ違い、近づいては遠ざかる大きくて低い雲の群れ。 対向車のない道路。 ただなんとなく黙ったまま、風に吹かれること早30分。 運転席と助手席の間からにゅっと手が伸びてきた。 手の中には3本のロリポップ。 オレンジとピンクと水色の鮮やかな包み紙。 「どれか一つ」 ぬっとマコトの前に突き出すミキ。 うーん…っと、一通り見回すと、 「じゃ、これで」 マコトは水色の包み紙を手にした。 「んっ!?」 抜けない。 「フジモトさん?」 「なに?」 「あのー。取れないんですけどぉ」 「うん。マコトはこれ」 うん…って、と呆れるマコトの前に、ミキはピンクの包み紙のロリポップを差し出した。 「恋の味だからね。…たぶん」 「たぶんっスか」 ありがとーございます。とは言ったものの、いじけるマコトの手中でくるくる回るストロベリークリーム味。 リカはちらりと目をやって、すねた子犬のようにむうっといじけるマコトに微笑みかけた。 「まぁ、いいじゃん。いいなぁ。ピンクで」 「大丈夫。リカちゃんのもピンクだから。いちおー」 ミキはぺりぺりとオレンジの包装紙をはがすと、 「はい。リカちゃん。あーん」 すいっと、ピンクがかったオレンジ色のロリポップを口元に差し出す。 パクッとくわえるとリカの口の中に強い酸味とすっきりした甘さが広がった。 「なにぃ? これ」 「ふふーん。ピンクグレープフルーツ」 「あーなるほどねぇ。確かにピンクだね。ありがとミキちゃん」 「どーいたしまして」 ミキは手に残った水色の包装紙をはがして口に放り込んだ。 マコトも包装紙をはがして銜えた。 まったりしたミルク味とイチゴの風味。 なんかケーキ食べたいなぁ…。そんなことをふと思った。 そしてもう一つの疑問が頭をすいっと過ぎる。 「あの、フジモトさん。これって、いったいど-してるんですか?」 「ん?」 助手席と運転席のシートに腕を置き、間から顔を出してロリポップを銜えてるミキがちょんと首をひねる。 「だって、いっつもなめてるじゃないですか」 「よく見てるねぇ」 「見てますよぉ。だいすきだもん。みんなのこと」 「うわっ! きもっ!」 ほとんど条件反射で反応するミキ。 リカは思わず声を上げて笑った。 「あーちょっとぉ! イシカーさーん! 笑うとこじゃないですってばぁ」 「あーごめんね。マコト。でも、戦闘中とか、あと…うん……。そうだね」 ふふふっと目をいたずらっぽく細めてミキは笑った。 「知りたい?」 「うん!」 きらきらと期待が込められたマコトの目。 ちらりとミキが運転席に目をやると、ふっと目を合わせてきたリカは左手で口元を押さえてくすくす笑っている。 「ないしょ」 「えーーーっ!」 「終わったらさ、教えてあげるよ」 ミキはぽんとマコトの頭に手を載せて、ちょっと乱暴にかき回した。 「はーい」 「あと、みんなにはナイショだからね」 「はい」 カーステレオから流れるアップテンポのラブソングが風に流れて空に溶けていく。 「イシカーさん…あの…」 「ん? なに?」 マコトの方は向かず、けれど笑顔で答える。 「あの…。あの……」 リカに頬を寄せるように運転席のシートに置いた右腕に頭を乗せてマコトを見るミキ。 マコトはきゅっと唇を噛み締めると、ちらりと手の中の手紙を、そしてざわざわと風に揺れる丈の短い草原へと目をやった。 そして、ため息を一つ。 「…あの…。あたし……へんじゃない…ですよね…」 視線は再び手の中の手紙。 ミキは今度は頬にキスでもするかのように顔をリカに向けた。 ミラー越しに見るどこか緊張してるような顔をしたミキ。 リカはなんとなくカーステレオから流れる跳ねたメロディーを1フレーズだけ口ずさんだ。 時速87キロでかっとぶジープが生み出す風がメロディーをさらっていく。 「へんじゃないよ」 顔を上げて見たリカの横顔は、笑っていたけど、笑っていなかった。 「すきだよ」 「…」 ミラー越しにリカとミキの目が合う。 「いいじゃん…それで」 ぐっとアクセルを踏み込み、メーターの針が一気に100へと突っ込んでいく。 「マコト」 「はい?」 「すき? タカーシのこと」 ミラー越しに見たリカの目は息を呑むほどまっすぐで、じっとマコトを見つめるミキの目は真剣だった。 マコトはしっかりと前を見た。 ぎゅうっと手紙を握る手の平に爪が食い込む。 「はい」 人気のない街道の向こうに うっすらと基地の姿が見えてくる。 ミキはぼすっと後部座席に体を投げ出すと、がりがりとロリポップを噛み砕いて飲み込んだ。 せつなくやさしい恋の歌は、カーステレオのスピーカーから風に乗り、灰色の影を抱く雲の隙間からのぞく青へと帰っていく。 ステレオの音を打ち消すように、耳元で唸る風に負けないように、ミキは空に向かって怒鳴るように歌いだした。 めいっぱい、せいいっぱい、届け恋の歌。 マコトも一緒になって声を張り上げて歌いだす。 リカはステレオを切った。 とんちんかんなせつないやさしいラブソング。 めいっぱい、せいいっぱい、空に響け。 時速100キロを越えたジープは、残りの距離をあっという間に駆け抜けた。 * さくら隊の兵舎の見えるところでジープを止めた。 日中は暖かくなってきたとはいえ、約1時間、時速100キロほどで風に吹かれていたのは体を冷やすには十分で、届けに行く前にリカとミキは積んでおいた幌をつけて屋根を作ってから、 「マコトは車で待ってて」 と言い残し、兵舎に向かっていった。 なんでも、前回の乙女隊の戦況レポートを見たいとかで、カオリが作った報告書をナツミに届けるというのがメインのお使いらしいと、マコトは幌を作る手伝いをしながら聞かされた。 まだ高速でぶち当たって髪をかき回していった風の感触が残っている。 二人が兵舎に向かってからまだ10分。 マコトの中ではすでに2時間。 時折顔を出しては消える陽射し。 間からのぞく空の青。 握り締めてくしゃくしゃになった空色の便箋をできるだけ綺麗に畳むと、マコトは胸のポケットにしまった。 ザッザッザッザッ…! 近づいてくる足音。 「おーーーーいっ!」 いつも胸の中にあった声。 今、聞きたかった声。 マコトはドアを開けてジープから飛び出した。 「あっ! わあっ!」 首にかじりつくように飛び込んできたアイをマコトはなんとか受け止めた。 「アイちゃん!」 「マコトー! 会いたかったよ~」 ぎゅうっと抱きしめて、しっかりと確かめる。 そして少しだけ体を離すと、驚きとうれしさとでぱっと目を見開いたアイが相変わらずの早口で尋ねた。 「どーしたん? なんかあったん?」 「どーしたって、こっちが聞きたいよぉ! アイちゃん怪我したって言うから!」 「あー」 愛がバツの悪そうに目を細めて笑う。 むっとマコトの口がへの字になる。 「アサミちゃんの手紙にもリサちゃんのにも書いてあったけどさ…。でも…」 「だったら、大したことないってわかっとるやろ」 「だけどさぁ…。わかんないじゃん…」 見てないもん…と、にらみつける。 潤んだ目で見上げられて、そのへの字口といい子犬みたいやわ…と、ふっとアイの顔が柔らかくほころんでいく。 彼女は一人。自分は三人。 まして戦う場所が違う。 ズドン。 それ一つで終わり。 陸の上なら当たった場所にも運にも寄るけど、空の中では散っておしまい。 「ごめんなぁ。不安にさせてもぉて…」 「バカっ…」 べしっとアイの腕を叩くマコト。 「いった!」 「バカ」 「二度も言わんでいいって。もう」 「だぁってさぁ…」 へたれモード全開のマコト。 アイはマコトの手を取ると、そっと自分の頭の右側の辺りに置いた。 「こぶ?」 「うん。この間の飛行訓練でな、終わったあとえっらいフラフラになってまって…降りるときに頭からおっこったンよ」 マコトの手の中にはっきりと感じる痛々しいふくらみ。 「…そうだったんだ…」 「そうだった…って、しらんの?」 「うん。二人の手紙にも訓練で怪我したけど心配ないよ…しかなかったし」 「そーなんかぁ。あっしもその…心配掛けたくなかったから、大して書かんかったけど…」 どっと疲れに襲われるマコト。 たぶん、アサミもリサも不安にさせたくなかったんだろう。 だからあえて細かくは書かなかった。 まして出撃直前。 余計な不安を与えたくない。 けど、それがかえって招いた不安。 そういえば、アサミちゃんの手紙、やけに何度も書き直されてたっけ…そんなことを思い出した。 「ホントは書かないのが一番やって思ったんやけど、でも…知っててもらいたかった…。ゴメン」 「…いいよ」 そっとこぶから手を離すと、そのままアイの手を包むように握った。 「無事なのわかったから。私も同じだよ。きっと。だから…さ」 そして、へへへっと照れくさそうにマコトは笑った。 「一人で騒いじゃったね。へへっ」 「ほんとやわー。でも、会えたからよかったわぁ」 「そうだね。また会いに来るよ」 「絶対やよ」 「うん!」 そして、にひひひひって二人で顔を見合わせて笑う。 「そういえば、アサミちゃんとリサちゃんは?」 「あー。なんかアイちゃん行ってきなよ…って、自分たちはいいからって」 「そうなんだぁ」 「そのかわり、手紙預かってるから」 軍支給の迷彩のジャケットの胸ポケットから2通の手紙を出してマコトに手渡す。 淡い桜色の封筒とクリーム色の封筒。 マコトは大事にそれを胸ポケットにしまった。 アイはそれを見届けると、少しだけ声のトーンを落とした。 「マコト」 「ん?」 「明日?」 「うん」 「そっか」 視線を地面に一度落とすと、一転の曇りのない目をまっすぐにマコトに向ける。 「マコト」 そして、ニカッと笑った。 「おまじない」 「おまじない?」 「おまじない。絶対生きて帰ってこれるように」 つ…と、アイが一歩だけ距離を詰めて、そっと両腕に手を置く。 まだちょっと意味がわかりかねるマコトの頭に「?」が飛ぶ。じっと目を見つめられて、「あれ?」とは思うが頭が上手く働かない。 きゅっと袖を掴むアイの手。 「…」 「…」 すっと唇が近づいて、なんとなくだけど目を閉じることができなくて、吸い込まれるように瞳を見つめるマコト。 あと2つ数えたら触れる唇。 「あのー」 ぱっとアイの顔が離れた。 ぽかんと口を開けるマコト。 アイの視線の先をたどると、そこにはリカとミキ。 「あれっ。ぶちゅっといっちゃいなよ。ぶちゅっと」 とミキが言えば、リカはリカで…。 「いやぁ…アイちゃん、なんかオトコマエ…」 ふんっ…と息を吐き出すと、 「もうっ! あっち向いててくださいぃ!」 真っ赤な顔でちょっと泣きそうに口を尖らすアイ。 うがーっと急激にゆでだこ状態になってほけーっとしているマコト。 リカとミキはクスッと顔を見合うと、 「はーーい」 「はーい」 とりあえずあっちやそっちの方に顔を向けた。 それをしっかり確認すると、アイははっと短く息を吐いた。 「マコト」 囁いて、まっすぐに見つめて、掠めるように、まだ戸惑いの残るマコトの唇を塞いだ。 時間が止まった。 このままならいいのに…。 そんなことを思う余韻もなく、我に返ったら目の前でアイがへへへへって笑っている。 ぽんっと照れかくしに腕を叩かれた。 「いったいって! アイちゃん」 「や…。せやって、なぁ!」 耳まで真っ赤にしてうつむいて視線をさまよわせるアイ。 「ふぅーっ!」 「ぃゃっほーーぃっ!」 「ひゅーひゅーっ!」 「えっ!」 「あ゛っ!」 はっと声の方を見ると、リカとミキがニヤニヤと笑っている。 そして、 「ちゃーんと、見てましたよぉ」 ぱっと真横にスライドするように動いたリカとミキの間にいたのはエリ。 「うっそやろ…」 呆然とするアイ。マコトはポカーンと口を開けたまま、目が点になっている。 「いやーーっ。あっついねぇ」 「もーっ。二人ともかわいーっ!」 「あー。なんかエリも恥ずかしくなってきましたぁ」 はしゃぐ三人をよそに言われっぱなしのマコトとアイは互いにちらりと目を見やって、やれやれとため息。 パタン、バタン。 ジープのドアが閉まる。 運転席にはもちろんリカ。助手席にはエリ。後部座席にはミキがすでに乗り込んでいる。 「じゃ、アイちゃん。またね」 「うん。またね。マコト」 うなずいて返して、マコトはドアコックに手を掛けて、少しだけ考えた。 「アイちゃん」 向き直ると、アイの腕を掴んでぐっと引き寄せて抱きしめた。 これを最後にはしたくない。 するつもりはないけれど、もう一度だけ。 髪をさらりと舞い上げる風がいつの間に厚い雲を追い払って、輝くような陽射しが降り注ぐ。 体にまだ残ってる抱きしめるマコトの腕の感触。 そっと唇を人差し指でなぞった。 なんや…イチゴ牛乳の味やったな…。 飲むたびに思い出すんだろうな…と。 砂煙を巻き上げて離れていくジープを、アイは見えなくなるまで見送った。 カオリのお使いは戦況報告のレポートのお届けと…。 「はい。みんなにはないしょね」 ミキがプリン味のロリポップをエリに渡す。 「あっ! ありがとーございまーす」 ぺりぺりと包装をはいでパクリ。 「なんか、変わった味ですねぇ」 エリはふふっと目を細めて柔らかく笑った。 『さびしいのは一緒だから』 書類を手渡して、カオリは小さく笑った。 『マコトだけってわけにもいかないっしょ』 そう言って、今度は苦笑いする。 『あー。こんなに甘くっちゃいけないんだけどねー』 って言うと、 『でも、これからはさらに厳しくなるだけだから…』 だからこそ…なのかもしれないけどって笑ったカオリの横顔。 リカは何も言えなかった。 淡い窓越しの光が描き出した陰のあるその微笑が、あまりに美しすぎたから。 明日の出撃前にさくら隊からお迎えがやってくる。たぶん、マリとヒトミだろう。 それまでのつかの間の時間。 明日の今頃は青い青い空の下、泥にまみれて血の臭いと死の臭いに溢れた大地を、ただたださまよい、突き進む。 死神たちが手招きする。天使がこの手を取ろうとする。 誘惑を振り払って帰ってくるから、今はできるだけ笑っていよう。 ほら、空だって晴れたから。 対向車線にまったく人気のない道路。 荒れた路面。 包み込むようにだだっぴろい草原がただただ流れていく。 時速100キロで帰り道を行くカーキ色の鉄の塊。 カーステレオから流れるロック。 明日がどっちか知らないけれど、とりあえず進め。まっすぐに。 そしてベースキャンプの姿が見えてくる。 頭の上にあった太陽は、ようやく西へと少し傾き始めた。 フロントガラスの向こうに広がる空は、果てしなく鮮やかだった。 (2004/4/16)
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みなみけ 10-776氏 答えは…_(マコト視点), (千秋視点) (千秋×マコト)(5年くらい後のお話) 小ネタ マコト争奪戦 (マコト×みなみけの麗しい乙女たち) 10-776氏 作者別 保管庫
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次の日、マコトが学校から帰ろうと下駄箱で靴を出していると、突然に声をか けられた。 「アマギくん。」 親しげでありながら礼儀はわきまえている、クラスメイトへの呼び掛けの模範 のような調子でそう言ったのはコウタ・キムラ――マコトのクラスの学級委員長――だった。 マコトが彼の方に顔を向けると、彼は何やら神妙な面持ちでいる。 どうしたのか、とマコトが訊くと、彼は言った。 「今日、これからいいかな……コバヤシくんのことで、ちょっと。」 ポテトが乗ったトレイを手に席に戻ると、キムラは携帯電話を閉じ、マコトを見た。 「ポテトだけ?」 「ああ」 「ハンバーガーとかは?」 「腹減ってないし。」 ゆっくり話せる場所を、と学校の近くにあるファーストフード店に入ったのは 失敗だったかもしれない。マコトは前回タルタロスでコラージュの話を聞いてか らというもの、肉を口にするのを避けるようになっていた。 そんな彼に向かいあって座るキムラのトレイにはてりやきバーガーのセットが 乗っかっている。気分が悪くなって、マコトは目を逸らす。 「そんなこと言って」 キムラがニヤリとして人差し指を軽くマコトに向ける。 「お金無いんでしょ。バイトしてないんだろ?」 「どこ情報だよそれ」 「コバヤシくん情報」 笑えなかった。 「……それで、今日は?」 しばらくして、マコトはポテトをくわえて言った。 キムラはてりやきバーガーの包み紙を、ソースが手につかないように丁寧にた たんでトレイに置く。コーラを一口飲んで、それから答えた。 「今日さぁ」 キムラはマコトではなく、トレイ上の広告を見ていた。なんでもない話をする 体を保ちたいのかもしれないが、不自然だ。 「先生が言ってたけど」 キムラは少し声を落とす。 「行方不明だよね……コバヤシくん。」 マコトは曖昧に頷いた。 そうだった。ユウスケの母はついに(やっと)警察に捜索願を提出し、当然それ は学校にも伝えられ、それを受けて今日のホームルームで担任の教師はクラスメ イト全員に「コバヤシが最近悩んでいる様子は無かったか」、などという見当外 れなアンケートをとったのだった。マコトは紙を白紙で出した。 「ああ、そうだな。……心配だ。」 白々しく、マコトはそう言う。 タルタロスの薄暗い部屋の缶に収められたあの赤黒い粉を、心配? なんだか少し可笑しく思えて、マコトはわずかに吹き出す。 「何が可笑しいんだよ」 その様を見たキムラが不快そうに言った。 「いや、べつに。」 マコトは軽く頭を振って、改めてキムラを見る。 「それで――また、俺が何か知ってるんじゃないかって?」 「……うん、そう。」 頷くキムラ。 マコトは椅子に座りなおす。 「悪いけど、俺は何も知らないよ。」 そう言って、マコトはまたポテトを口に運んだ。何か飲み物も頼めばよかった。 会話はそこで途切れた。それでもキムラはマコトの様子を伺うようにチラチラ と見ていたが、やがて軽く息を吐いて、立ち上がる。 「ちょっとトイレに」 そうしてトイレへ消えていくキムラを見送って、少しの間マコトは1人でポテト を消化していたが、ズボンのポケットから感じた不意の振動にその手を止めた。 震える携帯電話をポケットから引っ張り出し、開く。電話だ――耳に当てる。 「もしもし」 「こんばんは、アマギさん。」 事務的な、聞いたことのない声。しかしマコトはすぐに理解した。 「タルタロスか」 「はい。次回の対戦カードと日時が決定いたしましたのでお伝えいたします。」 「ちょっと待ってくれ、メモを……」 言いながらマコトはトイレの方を目で窺い、それから手帳を取り出した。 「……よろしいですか?」 「ああ。」 「ではお伝えいたします。日時は明後日、土曜日午後3時ちょうどとなっております。 もしも都合がつかないのでしたら今、仰ってください。」 「……多分、大丈夫。」 「では次に対戦相手についてお伝えいたします。」 「ああ」 「登録名は『ケルベロス』。現在まで3ゲームを経験しているプレイヤーです。こちら で独自につけているランキングでは、アマギさんの2つ上に位置しておりますが、バラ ンス的には『ケルベロスやや有利』に留まると判断いたしました。」 「え?」 「いかがなさいましたか?」 「登録名って……」 「登録名とは、タルタロス登録時に登録される、タルタロス内部でのみ通用する名前でございますが。」 「……そういえば、あったな。」 マコトの額を冷や汗が伝う。 思い出した。タルタロスとの契約時に記入した書類に、たしかそんな欄があった。そし て、俺はいい名前が思い付かなかったから、その欄に―― 「アマギさんは『マコト・アマギ』と本名で登録されております。」 ――どこまで間抜けなんだ俺は。 「……わかった。じゃあちょっと悪いけれど、その登録名を変更するのはできる?」 「今、でございますか?」 「今。」 「……少々お待ちください。」 『少々』待った。 「……お待たせいたしました。手数料として1万円ほどいただければ、今すぐの変更は可能です。」 「頼む。」 マコトは最初にコラージュから渡された報酬には手をつけていない。その程度は問題ではなかった。 「了解しました。では、変更後の名前をどうぞ。」 「えーと……」 そこまで言って、マコトは詰まる。名前を考えていなかった。 「そうだな……」 早くしないとキムラがトイレから戻ってきてしまう。マコトはもうどうでもよくなった。 「じゃあ、『ああああ』で。」 「その名前はすでに使われております。」 「マジか」 「はい」 「じゃあ『もょもと』」 「その名前も使えません」 「タルタロスの住人ふざけすぎだろ」 「そちらこそ真面目に考えてください」 「わかったよ、そうだな……」 マコトは少し考える。『タルタロス』と『タナトス』にリベンジするのにふさわしい名前―― 「――『オルフェウス』。」 「……その名前で、よろしいですか?」 「ああ。」 「では登録名を『オルフェウス』に変更いたします。手数料は3日以内にタルタロスまでお願いします。」 「わかった。」 「では、話を戻します。ほかに何かご質問は?」 「……いや、無い。」 「了解いたしました。これで今回の連絡は終わりです。あなた様の勝利をお祈りいたしております。」 「わかった。」 電話は丁寧に切られた。 マコトは携帯電話をしまう。憂鬱さが息と一緒に漏れた。 だけど、逃げない。 どうせ今回戦う相手――『ケルベロス』は自分と同じ人殺しだろう。いや、すでに相手は 3ゲームを経験しているらしいから、殺した人数では向こうが上にちがいない。 相手は悪いやつなんだから、今さら躊躇う必要もないはずだ。 ……相手『も』だな。 それ以上余計なことを考えそうになって、またポテトを口に押し込む。 また横目でトイレを見た。遅いな、キムラ。 と、そう思った直後、キムラが姿を現した。 「いやーまいったよ」 席に戻りながらキムラが言う。 「小さい方のトイレが2つあって、片方故障中でさ、もう片方は怖い感じのマッチョなヤンキーが使ってたのよ」 「へぇ」 「それでしかもその人むっちゃ長い間出そうとしてるのね?仕方なく後ろで待ってたらいきな り『何見てんだ』って絡まれかけてー」 「マジかよ?」 「うん。んで、『ウゼー』って思ったんだけど、その時気づいたんだ。」 「何に?」 「そいつチン○出しっぱなしだったのよ。」 笑うキムラ。マコトも空気を読んで笑う。 「んで、それそいつに言ったらズボンにしまいはじめたからその間に逃げてきたわ。」 「マジ?だったら早く店出ないとヤバくね?」 「いや、ああいうのは3歩歩けば忘れる脳ミソしてるから、必要ないよ。」 「つーかさ」 「ん?」 「これメシ食うとこで話すような話じゃないだろ」 2人はまた笑った。 しばらくして、店を出て、キムラと別れた。 駅へ向かう人の流れに紛れ、夜の街を歩く。 イヤホンをして道を歩いていると、周囲の人たちが自分の意識から蹴り出されるの が感じられる。 他人を意識しないことでしか世界に触れられないのか。もし、自分の意識から蹴り 出された他人がその瞬間にこの世から居なくなっても、何も感じないんだろうな。 『自分の意識していないものは実はこの世に存在していないんじゃないか』そんな 思考実験があったことを思い出す。 そんなことを考えながら駅前の広場に足を踏み入れ、そこでマコトはポケットが振 動していることに気づいた。 携帯電話を取りだし、ディスプレイの番号を見る。見覚えがあった。 急いでイヤホンを外し、足を止めて電話に出る。 「もしもし。」 「こんばんは。」 聞こえてきたのは女性の声―― 「コンドウさんですね。」 「ええ。今少し時間いいかしら?」 電話口で黒髪の女性、アヤカ・コンドウは言った。 マコトは返事をし、辺りを窺いつつ近くの街灯に寄りかかる。 「ありがとう。でも手短に伝えるわね。」 「はい。」 「今後の捜査方針が決まりました。」 マコトは素早く目で辺りを見回した。 「今後、君には『トロイの木馬』になってもらうわ。」 「え?」 「詳しく説明するわね」 マコトは携帯電話を握りなおした。 「まず第1に、タルタロスのリーダーであるコラージュとタナトス、彼らを今のまま 逮捕するのは得策ではないわ。」 「なんでですか」 「『彼らは直接殺人を犯していないから』よ。もしこのまま私たちがタルタロスに乗 り込んでも、彼らは殺人でなく過失致死の罪に留まるわ」 「だから何故?」 マコトは自分の語気がわずかに荒くなっているのがわかった。 「『殺人罪』の成立には『殺意』が必要なの。彼らは『ゲームをプレイし、檻を上げ るだけ』だから、『殺意は無かった』と言われてしまえばそれまでよ。」 「そんなわけねーだろ!」 つい大声が出た。道行く何人かがこちらを見たので、マコトは顔を背ける。 「残念ながら、そうなるわね。実際殺意は無いのかもしれないし……。その辺りの立 証をするのは私たちと検察の仕事だけど……ここだけの話」 アヤカは声を潜めた。 「……どうやら警察上層部にも彼らの顧客がいるようなのよ。」 言葉が出ない。 「誰かはわからないけれど、その人物のせいで私たちも思うように動けないでいるわ。」 ふと、その言にマコトは何かひっかかるものを感じた。 「それに、君から聞いたタルタロスのその他の業務内容から推測するに、他の犯罪組織と の繋がりも充分考えられる。ならば、なるべく奥深くまで切り込みたい。」 マコトは黙りこむ。悔しかった。 「……いい?」 「……ああ。」 「じゃあ、続けるわね。第2に、だから君にはトロイの木馬になってもらうわ。」 「それがよくわからないんですが。」 「簡単よ。」 ひと呼吸。 「君は『内部からタルタロスを破壊する手助け』をしてくれればいい。」 「内部からって……もしかして」 「具体的に言えば、『コラージュたちの信頼を勝ち取り、こちらの勢力をタルタロスへ送 り込む手助けをしてくれればいい』ということ。」 「それってつまり」 喉の渇きをマコトは感じる。 「『他のプレイヤーを殺してもいい』……ってことか。」 「そうね。」 愕然とした。が、すぐに思い直す。 『他のプレイヤーもどうせ人殺しだ。だから殺してもかまわない』と、自分もそう考えただろう? 彼女も同じことを考えているだけだ…… しかし、やはりひっかかる。 「心配しなくても、君のことは私が守るわ。協力者をつける。」 「協力者?」 「ええ」 アヤカは頷く。 「信頼できる人よ。」 「名前は?」 「さぁ?」 「『さぁ?』って……」 「名前はわからないけれど、信頼はできるわ。」 「コンドウさん、あなたは――」 もう我慢できない。 「――あっちがわの人間ですか?」 マコトの言葉に、彼女は少し考えるような間をとった。 「『あっちがわ』とは?」 「『タルタロスがわ』ということです。」 「私を疑っているのね。」 頷くマコト。 「はっきり言って、あなたのやり方はとても警察のものとは思えない。」 「そうね。」 アヤカは驚くほど素直に認めた。 意外に感じるマコト。 「――まったく、そのとおりだわ。」 もう一度彼女はくりかえした。その口調には反省するような含みがある。 「……あんたは誰だ。」 マコトはもう、彼女へも牙を向けていた。 「私は――」 「正直に言え。」 「――警視庁、刑事部――」 次の瞬間、マコトは耳を疑った。 「――『管理官』。アヤカ・コンドウよ。」 息をのむ。 「……それを信用しろってのか。」 「ええ。」 「証拠は」 「いくらでも出せる。」 言い切る彼女。マコトは認めざるを得なかった。 「……なんで嘘をついてた。管理官とか、超偉いじゃねーか。」 「そうね。でも管理官じゃあ君の前に立って話を聞くことはできなかったわ。」 「それだけが理由か。」 「大部分はね。君に信用してもらうためにやったことだけど、結果的に嘘をつく 形になってしまってごめんなさい。」 「なんで、そこまでして」 「答えるわ。私の目的は――」 マコトは再び息をのむ。 「――『タナトスを殺すこと』よ。」 「タナトスを……?」 意外だった。彼女の口からそんな暴力的な言葉が出るとは。 「私はタナトスを、合法的に、殺したい。だから、わざわざ通報センターにまで根 をまわして、タルタロスに関わりそうな話は全部私のところへ持ってくるようにさせていたの。」 「いったい、奴と何が?」 「知りたい?」 ふ、と冷たい感覚がマコトの首筋を走った。 「……いや、いい。」 「そうしたほうがいいわ。でもお詫びに、1つだけ教えてあげる」 マコトは言葉を待った。 「私の理由は、君と同じよ。」 ハッとした。 「復讐……か?」 「――ええ。これで少しは、信用してもらえるかしら。」 ……確かに。もし今彼女が言ったことが全て本当だったなら、身分を偽ったことも、 この警察とは思えないやり方も、ギリギリ納得できる。 しかし、肝心の復讐の理由はぼかしているし、口からでまかせの可能性も否定しきれない。 だが、俺には選択肢は無いだろう。 たとえどんなに灰色でも、これが現時点で自分に与えられた唯一の反撃のカードなのだから。 「……わかった、信用するよ。」 「ありがとう。」 「……ということは、もしかしてアンタは今、警察とは関係無しに動いているのか?」 「半分はね。タルタロスを制圧するための実力はやはり必要だし、上から押さえられてても、 そのくらいは準備できるわ。捜査本部の話も本当よ。」 「じゃあ今、アンタは捜査本部に身を置きながら、それとは独立して秘密に俺と関わっているのか?」 「ええ、だいたいそんな感じよ。」 「大丈夫なのか?それって……」 アヤカは自嘲するように少し笑う。 「正直なところ、かなりキツいわ……こんなことしてるのバレたら懲戒免職どころか実刑だし。」 「……それほどまでに、タナトスをやりたいのか。」 「ええ。」 その声ははっきりとしていた。 「……わかった。あんたを信用する。」 すると、彼女はくすくすと笑う。 「なんだよ」と訊くと、「それ、二度目」と言われた。 「……そ、それはそうと!」 なんだか気恥ずかしくなって、頭をかく。 「さっき言ってた『協力者』って、どんなやつだ?」 「ああ、そうそう」 「名前すらわからないって、どういうことだよ。」 「正確には、本名がわからないだけで、名前はあるわ。」 「それは?」 「通称『サイクロプス』。」 「……またギリシャ神話かよ。」 「面白い偶然よね。」 「そいつはどんなやつ?」 「サイクロプスは、その筋では有名な、凄腕のハッカー、プログラマーよ。タルタロスとは関係が無いわ。」 「『その筋』って、ヤバい筋か。」 「だからこそ信用できる。ああいう業界は信用が全てだから、お互いに交わした 契約通りにしていれば、敵になることは無いわ。」 「そういうもんか」 マコトは街灯に手をつく。そろそろ立っているのに疲れてきた。 「――で、そいつと協力してタルタロスに亀裂を入れろ、と。」 「そういうこと。さらに詳しい算段はサイクロプスと合流してからまた。」 「そいつとはいつ会える?」 「準備ができたら向こうから君に接触してくるわ。少なくとも3日以内には会える予定よ。」 「わかった。」 それから2人は簡単な挨拶を交わし、電話を切った。 駅前の広場でマコトはひとり、物思いにふける。 なんだか、今日は色んなことがあった。 次の戦いは『ケルベロス』で、日は明後日……。 アヤカの人物像も掴めた。『タナトスを殺すため』に、彼女はマコトに協力してくれている。 肝心の理由は教えてくれなかったが、それが真実であるなら、彼女は心強い味方でいてくれるはずだ。 そしてそんな彼女が自分のために用意してくれた協力者、『サイクロプス』。3日以内に自分 の前に現れてくれるそうだが…… ……いったいどんな人物なのだろう。凄腕のハッカーだとか言われても、想像がつかない。 名前からは屈強な男がイメージされるが、そんなやつが頭脳労働か。いや、逆にアリか? もしかしたら白髪のスティーブン・セガールが両目にペットボトルの蓋をつけたような姿をしているのかも。 ……マンガの読みすぎか。 とにかく、自分がすべきことは1つだけ。 2日後の戦いのために、いつかタルタロスを滅ぼすために、腕を磨くこと。 そのためにマコトが向かうべきは目の前にある駅ではなかった。
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地下都市には当然だが自然現象としての雨や雪は降らない。 だが定期的に雨が降ってもらわないと困るような人種もこの世には沢山いるので、2週間に一度、 コロニー・ジャパンでは、地下都市の天井に備えられたスプリンクラーから雨が降るのだ。 そこまではいい。だけどその勢いがいつもまちまちなのはどういうわけだ?マコトは数メートル先も見通せない 程の雨にそう感じていた。 あれから――イナバさんが攫われてから――『12日』が経った。 ついにこの日を迎えた。 マコトは息を深くする。 軽い痛みに手のひらを見た。指の皮が剥け、治りかけたところに絆創膏が貼ってある。 今日までテスターの指導を可能な限り多く受けた。吸収できるところは全て吸収し、強められるところは全て強めた。 その成果が今日試される。 さっきアヤカさんから電話があった。 「ここで君に勝ってもらわなければ全てがダメになる。勝ちなさい。それ以外は認めないわ。」 わかってる―― ――でなければなんのために、命を賭けてきたのか。 ――いや、本当はわかっているんだ。 テスターは言った。 「当たり前のことだけれど復讐は何も生まない。自ら命を賭けて戦うに値する理由はそんなちっぽけなものじゃない はずだ。」 ――そうだ。もしかしたら俺は、本当はユウスケのことなんかどうでもいいのかもしれない―― 証拠にほら、アイツのことを思っても、軽く胸を締め付けられるだけだ。 それよりも、イナバさんのことを思ったほうが、何倍も苦しい。 人は過去に縛られるようにはできていないのかもしれない。 そこまで思い至り、また思考がアヤカさんへと飛ぶ。 彼女は過去に縛られている。復讐のために生きている。 ――彼女は、それで幸せなのか? 考えたが、わからなかった。 ただ確かなのは、彼女の復讐は、全てこの戦いのためだけにあったのだ。 負けるわけにはいかない――俺は、アヤカさんの復讐と、イナバさんの命と、ユウスケの魂に、 テスターの希望を背負っているのだから。それに―― マコトは傘から雫を落とし、エリュシオンの階段を上って、寂しげな部屋にぽつりと座すあのマネキンの前に立ち、 いつもの言葉を口にした。 「我は英雄にあらず。いまだここに至るに値せず」 ――俺たちは死ぬために戦うわけじゃないのだから。 ――暗い部屋で一人の人間がシャワーで濡れた身体を拭いていた。 その人物の瞳はわずかな光を反射してキラキラと金色に輝いている。大きなテーブルの上に広げられたローブと 仮面をその瞳は舐め回すように見て、それからタオルをどこかにやった。 下着を身につけながら、その人物は様々なことを思う。しかしその思考の殆どは常人には無関心すぎるものや、 もしくは想像もつかないほど壮大な物事に関することだったので、故に記憶する意味は無かった。 仮面のそばに転がる、小さな通信機から声がする。 「『オルフェウス』が到着しました。」 了解の意味を込めて電源を切った。 「よかったな、もうすぐ君は自由になる。」 金の瞳が視線を飛ばした部屋の隅には、首輪を嵌められた、壁に鎖で繋がれてぐったりとうなだれている少女の姿が あった。彼女は何も身につけていない。 「……もう反抗心も無くなったか」 興味なさげに視線を外し、ローブを纏う。 それから仮面を被って、少女の首輪を外してやった。 「服を着ろ。それから私の言うとおりにしろ。わかったな……『サイクロプス』」 タナトスの言葉に、サイクロプスは弱々しく頷いた。 「今回のバトルは一大イベントだ!」 コラージュは興奮気味に手を叩く。 「オルフェウスのタナトスとの因縁を宣伝材料にしたのは大当たりだった!こんなにお客様が集まるなんて――うひゃっほい!」 廊下をスキップしながら、彼は小走りでついてくる職員にそう話しかけていた。 職員の方は少し息を切らしながらコラージュに言う。 「しかし、あまりにも集客がよすぎて人手が足りません!入場制限を!これではお客様の身分チェックが疎かに……!」 「かまわないさ!ドンドン入れちゃおうじゃないか!どうせ警察は手出しできないんだ!」 高笑いするコラージュ。その表情は狂気じみていた。 心臓の鼓動。 わずかに乾く喉。 冷たい空気。 会場へ向かう廊下は静寂に包まれていた。 息は、白い。 だが一歩、歩を進める度に僅かな振動と熱狂の気配は確実に近づいてきていた。 感じて、頭は冴えていき、闘志は高ぶり始める。 マコトは最後の扉の前に立った。 ふと、コラージュに教えてもらったあのリラックス方を思い出す。 手のひらに「人」を書いて、ぱくり。 自分を奮い立たせるために敢えてそれをやった。 ノブに手をかける。大きく息を吸って―― ――開けた! 「ウェルカムトウウウウウUUUUUザ!!タルタロオオオオオオスッ!!」 吹き飛ばされそうなほどの歓声! 「イヤッハアアッ!!待ちくたびれたぜチャレンジャー!ヒーロー気取りの勘違いリトルボーイ! オルフェウスの登っ場っだああああ!」 口だけ男の早速の叫びに、マコトは何故か少しだけ安心して、観客どもにありったけの野次を飛ばされながら会場の 中央に向かう。 「親友の仇を討つためにタルタロス参戦!戦績は2勝のまだまだひよっ子!倍率は驚きの250倍! おいおいナメられすぎだぜぇ!?」 わかってんだよ、んなこと。そう思いながら金網の内側に入った。 「さぁ!迎え撃つのはテメーらご存知ナンバーワン――?」 反対側の入り口から、花火が噴出した。ひときわ大きな歓声があがる。 「――タナトスだぁああああああ!!」 花火の中から姿を現したのはタナトスだった。彼は道を堂々たる態度で歩いてくる。 「お前らご存知タルタロスの頂点!無敗の王者!正体を知る者は誰もいない!オルフェウスの倒すべき敵! 最強の死神!こいつがやられたら俺たち終わり!だけど心配すんなぁ!?ヤツは最高にクールだぜ!」 紹介を聞きながらマコトはタナトスを金網越しに睨みつけていたが、すぐに彼が何かを引きずっていることに気づいた。 そして、驚く。 「おぉーとあれはぁ……!?」 「テメェ!」 口だけ男より先にマコトは叫んでいた。金網を殴りつけ、威嚇するが、タナトスは動じずに目の前に立つ。 「久しぶりに会わせてやったのに、そんな態度でいいのか?」 彼はそう言って、片手の鎖に繋がれたひとりの人間をマコトに見せつけた。 「イナバさん……!」 それは以前映像で見たような、黒いビニール袋を被せられたミコト・イナバだった。 「おおっとコイツは珍しい!タナトスが人質をとっているなんて!」 「人質じゃない」 タナトスは声を張り上げ、口だけ男の発言を訂正する。 「別にこの娘をどうしようとか、そういうことじゃない。ただ、君はこっちの方がやる気が出るだろう?」 そうタナトスは金の瞳でマコトを見下し、不敵に笑いつつ、その指でイナバの下顎を撫でた。 彼女はピクリともしない。 「イナバさん!返事してくれ!イナバさん!」 「無駄だ。さるぐつわを噛ませてある。」 タナトスはそうして、ちょっと買い物に行くときに犬のリードをそこらに繋ぎ止めるように、鎖を金網に巻きつけてシートに座った。 マコトは少し迷ったが、口だけ男に「おせーぞファッキン!」と言われて、やっと配置についた。 チラリとイナバの様子を窺う。彼女は棒立ちだった。きっと何かされたんだ。 そう思うと、さらにメラメラと激しい炎が胸から燃え上がってきて、マコトは唇を噛む。 倒してやる、じゃない―― ――殺してやる。マコトはそう思った。 「さぁ配置についた二人のクレイジー野郎ども!オルフェウスは仇が討てるか!はたまた返り討ちで俺らの餌食かぁ!? 勝負は正々堂々1on1!」 なにが正々堂々、だ。 画面は機体選択画面だ。マコトはいつものように重装型を選ぶ。タナトスは――……高機動型か。 「おおっとこいつは相性反対!どんなバトルになるか予測つかねーぜ!」 続いて、武器の選択。 マコトはライフルを選んだ。テスターとの特訓でひと通り全ての武器を使ってみたが、彼が一番適性がある、 と推してくれたのがこれだった。 「双方武器選択も完了!いくぜいくぜぇ……!無様な死に様だけは勘弁しろよぉ!?」 「安心しろ!」 マコトは叫んでいた。 「……楽しませてやる」 その言葉に会場全体がひとつの生き物のように奇声を上げる。口だけ男は口角を目一杯に引きつらせ、マイクに吠えた。 「Yaaaaaaaaaaaahaaaaaaaaa!!バトル!レディ!」 画面が雲海に埋まり―― 「スタートだ!!」 ――大都市が眼下に姿を現した! 全身の毛がまるで本当に落下しているみたいに総毛だつ。マコトはよし!と小さくガッツポーズした。 「ステージは『東京』!ベーシックな市街地戦だ!」 『東京』はこのグラウンド・ゼロの中で最も人気のあるステージだ。 高層ビルを利用した立体的な攻防と、走る電車や自動車などのギミックも人気の秘訣だが、それ以上に やはりこの国の人間はこの都市に、たとえ直接見たことはなくとも、ある種の懐かしさを感じるらしい。 マコトもこのステージは好きだった。だいぶ前に黒い重装型を使うプレイヤーにフルボッコにされてからは使う気がなくなったが。 マコトは軽く頭を振り、思考を切り替えた。マコトが着地したのは『皇居』周辺の大きな道路だった。 レーダーをチェック。タナトスは物陰に入っているらしく、補足できない。 マコトはスラスターを吹かし、AACVの足で地面を蹴り、高く飛び上がった。飛行する。 さぁ、攻撃してこい―― マコトは身構えていたが、タナトスが意外な登場をしたので一瞬あっけにとられてしまった。 タナトスは目の前にいた。近くの国会議事堂の屋根に着地して、こちらを見上げている。 しかしタナトスは銃を構えてはいなかった。ぼんやりとしている。 どういうつもりだ?マコトはそう思う前にはすでに発砲していた。 だが驚くべきことにそのときには銃口の先からタナトスは消えていて、気づいたら今度はマコトの機体の数十メートル前方に、 やはりだらりと両腕を下げたままホバリングしていた。 観客から野次が飛ぶ。 「おぉーと待て待てヤローども!」 口だけ男がまた叫ぶ。 「タナトスはぁ!アレを見せてくれるつもりだぜぇ!!」 アレだって?アレってなんだ? マコトは疑問に思い、視線を金網の外側にある、ふたりを映す、ライブ会場にあるような大きなディスプレイに 飛ばした。 そこに映るタナトスは、懐から何かを取り出したところのようだった。あれは――ICカード! 「使わせてもらうぞ」 タナトスが言い切る前にマコトはライフルの狙いを定めた。危険を感じたら、とにかく撃って相手の邪魔をしろ、 考えるのはそのあとだ――これもテスターの教えだった。 ライフルの射撃を受けて、タナトスの高機動型は回避行動をとる。空中を泳ぐようなその動きに弾丸はかすりもしない。 「まぁ焦るな。」 タナトスの声は会場内のスピーカーからも聞こえていた。マスクの内側にマイクでも仕込んでいるのか。 「せっかくの戦いだ。ふさわしい場所がいいだろう?」 そうして、テスターはICカードを――「させるか!」マコトは無視された――カードスロットに差し込んだ。 画面にノイズが走る。 観客も大きくうねり、口だけ男はまた奇声をあげた。 「これが、私のカード――『タルタロス』だ。」 画面がノイズで埋まり、そして、また、晴れる。 マコトは目を疑った。 さっきまで『東京』ステージにいたはずだったのに…… マコトは周りを見渡した。 近代的なビル群は中世ヨーロッパのもののようなファンタジックなグラフィックのものに変わり、 空は晴天だったのが黒い雲が渦巻く、どんよりとした紫色のものになっている。重苦しい空気は画面を 越えて漂ってきていた。 なんだ、このステージ。マコトはこんな場所は見たことがなかった。 「ここはタルタロスだ。」 タナトスの声がする。レーダーを確認すると、8時の方角、東京タワー方面に反応があった。 とりあえず機体を反転させ、スラスターを冷却しつつそっちへ飛ぶ。 「私の使うチートは『テーマ統一』……はっきり言って、戦略的なアドバンテージは無い。」 遠方にひときわ背の高い建物が見える。あれは、東京タワー……? 「だがな、やはり雰囲気というものは大事だと、そうは思わないか?アマギくん。」 ちがう、東京タワーじゃない。 近づいて見たその場所は、もはや東京タワーと呼べる代物ではなかった。 赤と白の鉄骨には、紫の太い触手のようなものが無数に絡み付いていて、わずかに表面を波打たせている。 その触手が寄り集まったところには、目玉のようなディテールが見えた。 そして、そのグロテスクに変化した塔の前に、何かが浮いている。 AACVかと思い、否定し、また肯定した。 それは一般的な機体とは、東京タワーと同様に、大きく姿が変わっていた。 まず、巨大になっていた。マコトの使う重装型は、先程までタナトスが使っていたはずの高機動型よりふたまわりほど 大きいが、今目の前に浮かぶのは、さらにそれよりふた回りほど大きい。 それからデザインも、このファンタジックな世界観に合わせた、航空力学のかけらもないようなものになっていた。 右肩には、タナトスの身につけているあの仮面をアレンジしたような、巨大な装甲がついていて、 その影から伸びる右腕は、よく見るとテクスチャが繋がっていない。その手には身の丈もある巨大な、 大きく曲がった鎌が握られていた。 左半身は対して生物的なデザインで、これまた数メートルはあろうかという、大きな金の瞳の眼球がギョロリと こちらを睨んでいた。その下から生える左腕は、皮を剥がれた人間のようで、真っ赤な肉が集まったような姿をしている。 手には鋭い鉤爪が生えていた。 その両腕が生える胴体は、胸まわりこそ普通の機体と大差は無いが、下半身がまるでRPGに出てくる騎士のような、 マントと鎧を身につけたものになっていた。 その機体にはどこを見てもスラスターに相当する部位は無いが、しかしたしかに浮いていた。あんなの、 ゲームじゃなきゃ存在できねーな……マコトは思う。 「安心していい。」 また、タナトス。 「外見は大きく変わったが、スペックは高機動型と同じだ。むしろ当たり判定が大きくなった分、君に有利となったと思っていい。」 ……つまり、それって…… 「ハンデだよ」 「――っざけんなッ!」 マコトは吠えた。同時にホバリングしつつライフルを構える。 「ナメやがって……!」 「そんなことはない。君の努力は評価しているよ。」 「それがナメてるってんだよ!」 発砲した。タナトスはゆらりと機体を泳がせ、ライフルの銃撃を紙一重で避ける。 マコトも飛行を始めた。 また歓声があがる。 「ついに出たぁ!タナトス専用機体!あの死神の鎌に刈られた輩は数知れず! 自分をあえて不利な状況に置きながらも圧勝する!これがタナトスの真ッ骨ッ頂ーッ!!」 いよいよ実況も調子づく。それもマコトの耳には不快だ。 距離をとろうとするタナトスを追いつつ、ライフルを構えたマコト。発砲する。 するとその瞬間にタナトスは進行方向をこちらに向けて急転換し、弾丸を右肩に受けながらも、 ライフルの間合いの内側に潜り込むようにした。 タナトスのベースは高機動型なので、動きの遅い重装型のマコトでは対応が間に合わない。 タナトスは大鎌を振りかざしてマコトに迫った。 薙がれる!直前、危険を感じて機体のバランスをあえて崩したのは正解だった。大鎌はマコトの目の前の空を斬る。 マコトはその大鎌の迫力に脅威を感じて、接近戦は得策ではないとの判断をし、 とにかく距離をとろうと地面に向けて飛んだ。地形を上手くつかえば重装型でも高機動型を振り切れる。 タナトスの方はというと、速度を保ったまま再度襲いかかるために方向転換は先程の急なものでなく、 大きく弧を描くものにしていた。異形の東京タワーのそばを、死神が踊る。 タワーの足に近づいて、マコトはそこを蹴った。鉄骨に絡みつく触手から真緑の体液が飛び散ったが、 無視してそのまま少し飛ぶと、芝公園を越えて、JRの線路が見えてくる。そこもやはり不気味な外見に変化していた。 血の通う電線を機体で押し切って一度そこに着地し、枕木と砂利をまき散らしつつ、視界から外れたタナトスを レーダーで探した。 タナトスは追ってきている。ライフルでの射撃で迎え撃つ。2発ほど当たったが、突然に画面からその姿は消えた。 建物の影に隠れるほどの低空飛行に切り替えたらしい。マコトはそう判断して、ライフルを下ろして機体の足を踏ん張り、右腕の剣を展開した。 見たところ、タナトスには遠距離武装らしいデザインは無かった。ならば近接攻撃でくるはず。 線路の上ならば周りに視界をさえぎるものがないので不意打ちもない。まさかそっちから攻めてこないだなんて、 そんなこと、タルタロスの支配者には許されるわけないよなあ――?マコトは観客を一瞥した。 すると次の瞬間には予想通り建物の影からタナトスが飛び出し、大鎌を振り上げて襲いかかってきた。 カウンターのチャンス!とマコトは素早く大剣を盾のようにしてガードしようとするが、タナトスはやはりマコトのひとつ上をいっていた。 タナトスは大鎌の攻撃が防がれるなんて、承知の上だった。だから、彼は大鎌を攻撃ではなく、 マコトの機体を引き寄せるために使ったのだった。 鎌を持つ右腕を目一杯にのばし、熊手で浜辺の貝を引き寄せるように、鎌の切っ先でマコト機の背後の空間を狙う。 同時に鋭い鉤爪の生えた左腕は渾身の力をこめて折りたたみ、生半可な防御などやすやすと貫く威力の『貫手』を放つ準備をしていた。 そのときマコトの頭によぎったのは、やはりテスターの言葉だった――『格上は自分の予想通りの行動はけしてとらない』――ゾッとして、 とっさにカウンターの準備をやめ、ガードに専念する。 直後、マコト機は鎌に引き寄せられ、タナトスの貫手は放たれた。 間一髪!マコトは大剣の側面で貫手の軌道を逸らし、ダメージを最小限に抑えることができた。もしあのままカウンターの姿勢のままだったなら、 鎌で引き寄せられた時点で姿勢を崩され、貫手をもろにくらっていただろう。マコトの額を冷たいものが伝った。 「イヤッハァ!こいつはアブねー、紙一重で助かったオルフェウス!前回とはまるで別人!ってこれ前回も言ったな!?」 口だけ男も嬉しそうだ。 「しかしそれほどに見事な成長!気分は親戚のおじちゃんだぜ!あのとっさの対応はなかなかできるもんじゃねー! 格ゲー神ウメハラもビックリだ!」 歓声があがる。 「Yo,Yo!だがしかし今回ばかりは相手がワリーぜオルフェウス!よそ見してんな、死神はまだ目の前にいるぜぇ!」 言われるまでもなかった。貫手を受け流したはいいが、その後マコト機はタナトスの鎌から逃れることはできず、 むしろ受け流した勢いを利用されて振り回された挙句、線路の上にうつぶせに叩きつけられていたのだった。 その衝撃を再現するために、シートが激しく下から突き上げられたように揺さぶられる。軽く頬の内側を噛んでしまう。 血の味を感じながらも素早く両肩のスラスターを吹かし、地面すれすれを、うつぶせのまま飛行することで、 追撃の大鎌の刃をなんとか避けた。 しかし、その様子にタナトスは仮面の奥で小さく言った。 「そっちはハズレだ。」 気づいた時には遅かった。 マコトは隣の線路をなぞるように飛んだのだが、ちょうどそこに、これ以上ないほど完璧なタイミングで真正面からつっこんできたのは、 これもやはり異形と化した電車の車両だった。マコトはその突進をもろに機体に喰らい、現実ならば鉄道史に残る大惨事、 という脱線事故を引き起こしながら吹き飛ばされた。HPゲージが一気に短くなる。また観客たちが歓声をあげた。 「BINGOOOOOOOOO!まさにドンピシャリ!初撃からの鎌を使った流れるようなコンボ攻撃と、 ステージのギミックを見事に利用した追撃のシークエンスはまるで教育テレビのピタゴラなスイッチ!さすがのタナトスだ!」 タナトスはすでに線路から離れ、その上空にホバリングしている。鎌はだらりと下におろし、 凄惨な脱線事故の現場を眺める様はいよいよもって死神じみていた。その死神の左肩の大きな金の瞳の目玉は 相変わらず落ち着きがなく、様々な方向に視線を飛ばしている。 脱線した車両は線路に沿って敷かれた道路を飛び越え、近くの建物に突っ込み、ガス爆発を引き起こしていた。 その爆発はさらに別の建物にも伝播し、その結果、辺りは火の海と化していた。 黒煙が巨大な生き物のようにタナトスを包む。しかしタナトスは大打撃をくわえた余裕からか動きはしない。 肩の金眼が、煙が目に染みるのか、細められた――と、その瞬間に地面の方から飛んできた数発の銃弾がその眼球を 貫き、おびただしい量の真っ赤な血をまき散らした。眼は潰され、タナトスはバランスを崩す。観客がどよめいた。 タナトスの下方、燃え盛る地面の上でライフルを構えていたのはマコトの機体だった。正面の装甲は剥がれ、 内部構造がむき出しになり、大剣が合体している右腕は丸ごと吹き飛ばされ、肘から下が無くなっている。 その損傷の仕方は、マコトが電車と正面衝突する直前に右腕の剣と一番分厚い胸部装甲を合わせて盾として用い、 かろうじて即死だけは免れたことを物語っていた。 タナトスはマコトの姿をみとめると、煙の包囲網から逃れるために少し飛んだ。 「オルフェウスも負けちゃいねぇ!とっさの判断はベストアンサー!どうやらあの世の果てまでホームランは免れたみてーだが、 それでも負った手傷はなお致命傷に近い!はたしてここから巻き返せるのか!?」 その言葉が終わらないうちにマコトは跳び、タナトスに肉薄しようとしていた。右腕の剣が無くなったおかげでそのスピードは速い。 だが剣が無いのだから、わざわざ接近するメリットもないんじゃないのか?と、戦況を見守る口だけ男は思ったが、その理由はすぐにわかった。 マコトに間近まで接近されたタナトスは露骨に敵を警戒し、牽制のために前方の空中に回し蹴りを放ち、 また少し距離をとったのだ。その瞬間、タナトスの機体の弱点は誰の目にも明らかにになった。 タナトスの装備は絵に描いたような大鎌と、左腕の不気味な鉤爪だ。つまり遠距離武装がない。 普通そのことに気づいた相手は、遠距離から銃で攻撃する戦法をとるだろう、だがそれはタナトスの罠だ。 タナトスはあえて自機にそうした弱点を作ることによって、本人も周りの観客たちにも気づかれないまま、 敵の行動の選択肢を狭めていたのだ。そのことに気づかないまま、大半の敵は愚かにもタナトスに遠距離戦を挑み、 そのタルタロス最高レベルの操縦・回避テクニックの餌食になってしまう。 タナトスの真の弱点は、やはりその偏った武装にあった。 中距離では大鎌、至近距離では鉤爪というその組み合わせは、一見すると難攻不落に見える。 それは仮に大鎌を避けても直後に鉤爪の攻撃をくらうのが目に見えているからだが、しかしもし、戦闘中に鉤爪が使えなくなってしまったら? マコトはさっきの黒煙の中からの不意打ちで、タナトスの左肩を潰した。そのためにタナトスの左肩はだらりと下がってしまい、 力が無くなっている。マコトは、チート発動直後のタナトスのセリフから、外見こそ大きく違うものの、 通常の機体に通用することはタナトスにも変わらず効くのではないかとの推測をしていた。そして、試した。 結果として、通常の機体と同様、肩のど真ん中を撃ち抜かれたタナトスは、内部機構が破壊され、 左腕を動かせなくなってしまったのだった。 タナトスには大鎌だけが残された。そしてその大鎌には、武器それ自体の大きさのために予備動作も比例して大きいので、 あまりにも近距離に敵に接近されると対応が間に合わなくなるという欠点がある。 しっかりと武装の役割分担がなされているために、一角が欠けてしまったらカバーできない。それがタナトスの弱点だった。 だがしかしやはりタルタロスのトップはそんなことでは陥落しない。タナトスは突っ込んでくるマコトから離れるどころか 逆に真っ直ぐ全速で立ち向かい、ライフルの攻撃を数発もらいながらも、強烈な体当たりをかましたのだった。 マコトは弾き飛ばされる。 タナトスがすかさず大鎌を、右腕だけで構え、下方に落下していくマコトの命をいよいよ刈り取ってしまおうとする。 マコトは体当たりの衝撃に激しく揺さぶられながらもタナトスからは一瞬たりとも目を離していなかった。 そして、最後の一撃を準備して上方から襲いくるタナトスに向かってライフルの狙いをつけた。 次の瞬間、観客から悲鳴と歓声があがった―― 二機のAACVは再び空中で激しくぶつかり、落下し、下の建物を叩き潰した。 まきあがって視界を覆う埃が風に吹き飛ばされると、そこに見えたのは、無手のタナトスと、その胸にライフルの銃口を押し当てた マコトの機体だった。タナトスの遙か後方の道路に、マコトにはじかれて宙に舞っていた大鎌の刃が突き刺さる! 「お……おおっ?おおおおおおッ!?」 口だけ男すら一瞬言葉を失っていた。それほど疑いようもなかった。 ――マコトの勝ちだ。 全身が痺れるほどの歓声!絶叫!怒声! 「なんじゃこりゃああああああ!?」 実況もあらん限りの大声を出す。 「なんだ!いったい何が起こった!俺たちは夢でも見てるのか!?オルフェウスはタナトスから逃げられないんじゃなかったのか! オルフェウス、ほぼ勝ち確ーッ!だがまだ慌てるな、まだ勝敗が決したわけじゃねぇ! 俺たちが知ってるタナトスはこんなことじゃやられはしねー、そうだろ!?」 呼びかけられた当人――タナトスの表情は相変わらず窺いしれない。しかしその佇まいからは、これっぽっちも、 危機に直面したときの焦りや、諦めのような感情は感じられない。 それどころか、小さい子供に話しかけるときのような、優しく穏やかな雰囲気すらも感じられた。 タナトスは静かに言葉を発する。 「……どうした、撃たないのか?」 マコトはタナトスに銃を突きつけてはいたが、なぜかまだその引き金を引かずにいた。 撃てば勝利だし、万一外しても即反撃はありえない状況であるにもかかわらず。 タナトスの含み笑い。 「そんなに彼女が大事か?」 彼は頭を傾け、横目で傍らに鎖でつながれたミコト・イナバを見た。 すっかりその存在を忘れていた観客たちは、タナトスのその言葉に、賞賛や批判の言葉をぶつける。 「おっとこいつはウッカリしてたぜ!そういやタナトスには人質がいたな!しかも女だ! こいつは俄然オルフェウスを応援したくなってきたが、さぁどうなる!?」 「君の意思はそんなものだったのか」 死神の言葉は静かだ。しかし嵐のようなこの会場でも、なぜかいやにはっきりと聞こえる。 「遠慮することはない。こうなることは彼女も覚悟の上だろう。その引き金を引いて私を殺したまえ。 私を殺せばコバヤシくんの仇を討てるんだぞ。何のために君はいままで戦ってきたのだ?」 マコトは答えない。 「……まさか、仇よりも彼女の命が大切だとも言うつもりか。」 失望したような声。 「わかっているのか、この状況で彼女を無事に帰すには、君が死ぬしかないんだぞ。」 なおも、マコトは無言。 「……答えろ。君が命を賭けるに値するものは、何だ?」 「……ちがう。」 ぼそり、マコトは言った。 「ちがう?」 「ちがう。」 「なにがちがうのだ。」 「俺には、アンタを撃つのにためらいは無い。それがイナバさんもろともでも。」 「ならばなぜ撃たない?」 「俺が気づかないとでも思ったか!」 突然マコトは叫んだ。目は血走り、かみしめられた奥歯で、以前からぐらついていた一本が折れた。 「なぜ、本気で戦わない!」 その言葉はあれほど騒々しかった会場を一瞬で沈黙させるのに充分なものだった。
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「ちょっとトイレ行ってきます。」 マコちゃんことマコトはそういってトイレへと向かった。いつも通り"用事"を済ませる為に… 「ふぅ~」 トイレ。それは南家においてマコちゃんがマコトになれる唯一の場所。 「うわっ!」 そんな安息に浸る間もなく秘密の扉が開け放たれた。 「落ち着けマコト! 私だ!」 「なんだカナか…あぁ~びっくりしたぁ。 いや、この際誰がはいってきても落ち着いていられるか! それともお前はオレと顔馴染みのトイレの妖精か何かか!?」 「や~カギ閉めてないとは思わなくて…」 流石にバツが悪そうにカナが応えた。 「紙切れかけてたから。私じゃなくてハルカが持ってきてたらあぶなかったぞ。」 「紙使わない用事なんだよ…」 「カギ閉めろ! 不用心だぞ! (下の方も不用心だな…隠しきれてないぞ。いや、マコトのがデカいのか?)」 「お前が出て行き次第閉める。すぐ閉める。よーし閉める!」 マコトは決意を固めたが、結果としてそれは間に合わなかった。 「マコちゃん居る?紙切れかかってたと思うから…」 危惧されていた最愛にして最悪の女(ヒト)が来てしまったのだ。 「「!!!」」 危機に対して二人はとっさに行動にでた! 意味があるかは別として。 「これどんなルール?」 訳が分からずハルカが当惑する。 「遊びじゃないよ。びっくりしたんだよ」 驚きも冷めやらぬカナが答える。 そして自らも下半身にトイレットペーパーを捲いているマコトに尋ねた。 「そしてお前はどんな遊びだよ!(なんかエロいな…)」 とりあえず危機をしのいだマコトはトイレのカギを閉め、一人になることが出来た。 「ふぅ…なんとかハルカさんに正体を隠し通せたぁ。ハルカさんにオレの雄々しい象徴を見られたら、流石に正体を隠しきれなかったよ…」 しかし安心するマコトに次の試練が訪れた。 「うわっ!」 下半身に捲いたトイレットペーパーを押しのけ、隙間からマコトの体の中で唯一本人の申告通りの雄々しい象徴が立ち上がってしまっていた。 「うぅ…ハルカさんに見られるのを想像したら、とおちゃん譲りの湧き上がる欲情が…」 取りあえず下半身に捲いたトイレットペーパーを外して落ち着こうとするが、マコトの象徴は一向に主張をやめない。 「はぁ~どうしよぅ…まさか此処でヌく訳にはいかないし…かといってマコちゃんとしてはコレじゃあ出られないからなぁ」 例えマコトとしてでもトイレから勃起した状態で出れば変態扱いされるが、バカな子供であるマコトは気がつかなかった。 「そうだ! あれをすればもしかしたら…!」 トントン 「マコちゃん?どうかしたの?」 なかなかトイレから出てこないマコちゃんを心配してハルカが様子を見に来た。 「はぁい。な、なんでもありません!」 ハルカを心配させまいとマコちゃんは急いでトイレを出た。後始末も放り出して… 「マコちゃん。具合でも悪いの?」 「い、いえ。至って健康です。じいちゃん譲りの健康体ですから!」 「本当に大丈夫?あらっ」 「(しまったぁ! 後始末がまだだった!)」 マコちゃんよりだいぶ背の高いハルカにまだ流していない便器の中を見られてしまったのだ。 「マコちゃん生理中だったのね。凄い量みたいね。ナプキン足りる?」 「だ大丈夫です。今日は失礼します! おじゃましましたぁ!」 マコちゃんは脱兎の如く駆けだして帰って行った。 「こんなに血を出したのに走ったりして大丈夫かしら?」 窮地に立ったマコトがとった行動とは更に妄想を膨らませる事だったのだ。 ヘタレで本格的にエロい事を考えると鼻血を噴いて倒れるという弱点を逆に利用した奇策だ。 鼻血を拭いたトイレットペーパーを流し忘れたものの、ハルカは生理だと思ったようだ。 走って家に帰るとマコトはベッドに倒れこんだ。 「はぁはぁ…なんとか正体はバレなかったみたいだ。でも生理って…」 ブシュー! 小学生的な思考で"生理"という言葉に過剰反応したマコトは本日2回目の鼻血の噴水を噴き出し、両親に血まみれの姿で発見されるまで気絶していた。 「うーん」 トイレの一件の後、カナは自室で一人考え込んでいた。何についてかといえば勿論マコちゃんの下半身についてである。 「取りあえず下着も女物を穿かせるとして、アイツのチンコって両手でも隠しきれないのに下着に入るか?」 「そういえば、みんなあんなにデカいのかな? いや、女の子なマコちゃんなんかより普通の男はデカいかもしれん。あれよりデカいのが更にデカくなったのなんか私は入れれないよ」 「此処はやはり藤岡辺りに見せてもらい、確認するか…しかし藤岡は番長。チンコも番長サイズで参考にならんかもしれん。番長サイズか…そうか! ハルカも番長だったから胸が番長サイズになったのか!」 藤岡が聞いたら、下半身丸出しにして勃起したまま気絶しそうなことを考えながら、カナは妙な理論を展開しながら夕食までの時間を潰した。 宿題があったことなどすっかり忘れて… 名前 コメント 8.1-829氏 8.1スレ目 保管庫